冷徹執事様はCEO!?
「その割りに随分大荷物だな?」

田中は荷物を拾うと片眉をあげて尋ねる。

「またお得意の家出か?」

鋭い。私はギクっと固まった。

「大体田中こそどうしてうちにいるのよ」

慌てて話題を変えてはぐらかす。

「代表が日本に戻っていると聞いたから新春のご挨拶をしに来た」

資本提携を結んだばかりのepicの代表として、至極真っ当な理由である。

「あんな恥さらしといてよくうちの敷居がまたげたわね」

「ビジネスと燁子のことは関係ないから」

田中はシレっと言ってのける。全く悪びれていない態度が腹ただしい。

「関係ないなら放っておいて」

そそくさとバックを受け取ろうと手を伸ばすが、寸手のところでひょいっとかわされる。

「ちょっと返して!」

私はキッと田中を睨みつける。

「何処行くか教えたら離してやるよ」

ムキになる私を見て、田中は意地悪そうにニヤリと笑みを浮かべた。

「家出じゃないわ。箱根の別荘に行くの」

「年始の挨拶で来客も多いのに別荘なんて行ってる場合か?」

「どうでもいいでしょ?!」

しつこく追求してくる田中に嫌気がさして鼻の頭に皺を寄せる。

「社長にお伝えした方がいいかな。燁子がコソコソ逃げ出そうとしてること」

田中は横目でチラリとこちらへ視線を向けた。
本当底意地が悪い。

「年始の挨拶にかこつけて、色々面倒くさい思惑があるから嫌なのよ」

私はふくれてプイっと横を向く。

「箱根にいてもすぐバレるのが落ちだろ」

「少し時間が稼げればそれでいい。5日にはパパ達もアムステルダムに戻るから」

「まあ、せいぜい見つからないように気をつけろよ」

田中はショルダーバック手渡す。

突き放した言い方に今更ながらショックを受ける。
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