冷徹執事様はCEO!?
広々としたリビングには、白いソファーと木製のローテーブルが置かれ、フローリングの床にはグレーのラグが敷かれている。

壁際には大きなテレビが置かれ、両脇にはズラリと書籍とCDが並べられている。

ああ、此処は田中の部屋だな、と否が応でも解る。

「着替えて来るから座ってて」

田中は引き戸を開けて隣の部屋へ入っていった。恐らく寝室になっているんだろう。

ガラス戸を開けてベランダに出ると、東京タワーが間近に望める。

「綺麗」ボソっと呟くと息が白く凍る。

パパ達は今頃どうしてるかな。

手紙を置いてきたので、心配してないと思うけど、怒ってるよね、きっと。

匠ちゃんも、田中の家にいるなんて知ったら驚くよな。

「ってか、私がビックリだわー!」

思わず心の声を叫んでしまった。

何処か連れ出して、とは言ったもののまさかの自宅に連れ込まれるとは!

大人しく着いて来てしまった私も私じゃないか!

今更ながらプチパニックに陥る。

どうしよう。このままじゃ絶対何かされる。田中はエロいから。

どうやって逃げよう。

コンビニに行くふりしてもさっきのように直ぐバレる。

いや、でも此処で案外どうにかなってもいいんじゃねえか、という気もする。

田中を好き、だと思う。

だから結ばれるのは自然な事である。

でも、結ばれた後に、逃げられたら?

報われない想いに苦しみ、田中の気まぐれで愛された想い出に縋る。


それって地獄じゃない。

魔がさしたものの、やっぱり女の操は守り抜こうと固く決意する。
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