冷徹執事様はCEO!?
「こんなトコにいたのか」

後ろから声をかけられ振り返る。

紺色のカーディガンにデニムというラフな格好に着替えた田中がガラス戸から顔をのぞかせた。

「寒いから風邪引くぞ」

「うん」私は部屋の中に戻る。

「手が冷たくなってるじゃないか」

田中は私の両手をギュッと握りしめた。

「夜景が綺麗だったから見てたの」

「逃げたかと思った」田中は私の顔を見据える。

「他に行くトコないもん」私は唇を尖らせて言った。

「コーヒー淹れるから座ってて」田中はくしゃりと私の頭を撫でた。

今はそんな些細な事さえ嬉しい。

ソファーに座っていると、田中がコーヒーカップをトレイに乗せて運んで来た。

「いただきます」

久々に田中が淹れてくれたコーヒーを一口飲む。香りも豊かで濃さも丁度良い。

「やっぱり田中のコーヒーは美味しいわね」思わず笑みが零れる。

「恐れ入ります」田中もクスリと微笑んだ。

すぐ隣に座っているのでドキドキする。

「ねえ、今日は夕飯なあに？私お腹空いちゃったー」

田中はにっこりと笑みを浮かべる。

まあ、可愛い。

「自分の立場解ってるか？」

「はい？」

笑顔と似つかわしくない台詞に思わず聞き返してしまった。
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