冷徹執事様はCEO!?
「業種は違っても、会社を背負って立つ匠の相談相手が近くにいれば心強いだろう?」

「恐れ入ります」田中は忠臣のように頭を下げる。

「人格はさて置き、気心も知れてるし、経営者として稜は優秀だからな」匠ちゃんも同意する。

「それに」と言って、パパは付け加える。

「昔から田中くんは燁子を想っていてくれたようだから」

「…バレてました?」

田中は俯いて、片手で口元を抑えた。

いつもポーカーフェースの稜が気の毒なくらい真っ赤になっている。

「バレバレでしたよ」

パパはニッコリと笑みを浮かべる。

「燁子が通りかかると田中くんはいつもソワソワしていたからね」

「そ、そうだったの?全然きづかなかった」

意外な過去に私は只々驚くばかりだ。稜の事すら殆ど覚えていなかったのに。

「会った時に言ってくれればよかったのに」

「嫌われていたと思っていたので」

確かにあの勝負軒の一件以来、匠ちゃんの友人への挨拶は断固拒否するようになった。

その後も、何度か勝負軒のおにいさん―--つまりは当時の稜---を見かけたが、失礼だとは思いつつ、その度に走って逃げた。

「でも会った時に気づくだろう?普通」匠ちゃんは苦笑いを浮かべる。

「全然気づかなかった」

再会した時の稜は随分印象が違っていたから。

昔はもっと、こう…

「女好きするような感じじゃなかった?眼鏡も掛けてたから解らなかったわ」

今は服装も無頓着で、フォーマル以外は、いつもそこいらにある服を適当に着ている感満載だ。

「だからお前、最近眼鏡なんか掛けてたのか」

匠ちゃんはニヤリと笑った。

稜は無言で眼鏡をくいっと上げる。
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