孤高の貴公子・最高責任者の裏切り
「まあいいよ。どうせしんどいんだろ? どうしたらうまくいくか聞きに来た?」
その一言に救われた山瀬は、一瞬で落ち込みを忘れて
「1人1人のモチベーションを上げて、もっと作業に専念しないといけないと思います」
春野の目は突然色が変わった。
「そ。10人が全員俺だったら完璧だね。受付スピードも上がるし、電話もオリテルになんかしない。梱包は早いし、送り状や専用伝票の枚数管理もちゃんとできる。昨日の修理品が溜まる事もない。
だけどな、それはやっぱり無理なんだ。そういうのは責任者のエゴなんだよ」
山瀬は目を見て押し黙った。
「みんな仕事をしている理由は人それぞれだ。金のため、名誉のため、惰性。最悪、暇つぶしなんてのもあると思う。
その10人を同じモチベーションに揃えて完璧に作業させるなんて、無理なんだよ」
1つの正論がここに下った。
「……ならやっぱり……センター長と代理が残業するしかないんですか?」
「残業したって、休日出社したってもう追いつかねーもん。俺も最初はあそこに泊まりこんでやったよ。サブマネージャー口説いて鍵借りて。でももう年も年だし、4年前に子供も生まれたし、それからは色々無理になったわけだよ」
「あぁ……」
「その様子だと残業、休日出勤してるだろ?」
「はい。その上私、サブマネージャー補佐も兼ねてるので、鍵とか朝礼の準備とか色々あって……」
「サブマネージャー補佐!?」
春野はあんぐり口を開けて山瀬を見た。
「え、み……たいです」
「誰から言われたの!?」
「ま、マネージャーが……定例会議で……」
「定例会議に出たのか!?」
「え、まあ……お茶くみでもしてろって棟方さんに言われて。でもお茶は出さなかったんですけど」
「え、え、え。棟方が、お茶くみでもさせろってマネージャーに取り入ったって事?」
「いえ、マネージャーに定例会議の準備をしろって言われたんです。それで、お茶くみのことだよって棟方さんに言われて」
「え、マジで……」
春野はまだ、信じられないといった様子で首を横に振りながらこちらを見た。
「よくあのマネージャーにそう言わせたな」
「え?」
山瀬はわけが分からず、春野を見た。
「あの冷徹マネージャーに。そりゃあ、相当期待がかかってるはずだよ」
「えっ、き、期待、ですか!?」
「え、その前に、鍵……とか言ってなかった?」
「あ、はい。鍵は残業する時はマネージャーから預かって、それで朝また開けて。マネージャーが出勤してきたら返すようになっています」
「マネージャーが休みの日は?」
「えっ……さあ……いつも出勤してますけど」
「ああ、じゃあわざわざ鍵取りに寄ってるんだな」
「え、休んでないんですか!?」
「いや……それはお前もだろうよ」
春野はおかしそうに笑った。
「マネージャーは出勤日でもほとんど店の中にはいないよ。会議だなんだで本社にいることが多いから。だから、鍵取りに来てるんだよ」
「わ、わざわざ!?」
「まあ、1日預けるとこまで信用はされてないって事だろうけど。一晩持って帰らせるのもすごい」
「え、わりと初日から持って帰ってましたけど。面識ないのに」
「こっちが知ねーだけであっちは見てるんだろうよ。そういう人だから」
「そうなんですか……」
どういう状態なのかあまり理解できなかったので、なんとなく相槌に留めておく。
「敵、多くなるから気ぃつけとけよ」
「え、敵……ですか?」
「やっぱり店の中ではマネージャーってのは絶対的な存在だ。そいつにそこまで気に入られたとすると、黙っちゃいねーって奴も出て来ると思う」
「あ、棟方サブマネージャーにはさっそく言われました。センター長以上の仕事はするなって」
「ああ、あいつは大丈夫」
何故か春野は笑いながら言った。
「多分敵が多くなるって事を言いたかったんだと思うよ。頭良いし優しいからフォローもするし、盾にもなる。他に何か言われた?」
「今考えたら……定例会議出たからって調子に乗るなとか、補佐と代理の両立は仕事が多すぎるから代理は他の人に代わってもらった方がいいって……須藤マネージャーに直接、定例会議で言ってくれました」
「おぉ。大胆だな」
春野は目を見開いて口をすぼめた。
「俺は長く新都店にいるからよくわかるけど、須藤マネージャーは他のマネージャーに比べても絶対的な存在だ。本社の意思を的確に伝えるし、指示も狂いない。だから故、下がぎくしゃくしたりするんだけど。
でも今のサブマネージャーは粒ぞろいだから補佐してもわりと楽かもしんねえ」
そんな雰囲気では全くなかった事を思い出しながら、山瀬はまるまで納得がいったように頷いた。
その一言に救われた山瀬は、一瞬で落ち込みを忘れて
「1人1人のモチベーションを上げて、もっと作業に専念しないといけないと思います」
春野の目は突然色が変わった。
「そ。10人が全員俺だったら完璧だね。受付スピードも上がるし、電話もオリテルになんかしない。梱包は早いし、送り状や専用伝票の枚数管理もちゃんとできる。昨日の修理品が溜まる事もない。
だけどな、それはやっぱり無理なんだ。そういうのは責任者のエゴなんだよ」
山瀬は目を見て押し黙った。
「みんな仕事をしている理由は人それぞれだ。金のため、名誉のため、惰性。最悪、暇つぶしなんてのもあると思う。
その10人を同じモチベーションに揃えて完璧に作業させるなんて、無理なんだよ」
1つの正論がここに下った。
「……ならやっぱり……センター長と代理が残業するしかないんですか?」
「残業したって、休日出社したってもう追いつかねーもん。俺も最初はあそこに泊まりこんでやったよ。サブマネージャー口説いて鍵借りて。でももう年も年だし、4年前に子供も生まれたし、それからは色々無理になったわけだよ」
「あぁ……」
「その様子だと残業、休日出勤してるだろ?」
「はい。その上私、サブマネージャー補佐も兼ねてるので、鍵とか朝礼の準備とか色々あって……」
「サブマネージャー補佐!?」
春野はあんぐり口を開けて山瀬を見た。
「え、み……たいです」
「誰から言われたの!?」
「ま、マネージャーが……定例会議で……」
「定例会議に出たのか!?」
「え、まあ……お茶くみでもしてろって棟方さんに言われて。でもお茶は出さなかったんですけど」
「え、え、え。棟方が、お茶くみでもさせろってマネージャーに取り入ったって事?」
「いえ、マネージャーに定例会議の準備をしろって言われたんです。それで、お茶くみのことだよって棟方さんに言われて」
「え、マジで……」
春野はまだ、信じられないといった様子で首を横に振りながらこちらを見た。
「よくあのマネージャーにそう言わせたな」
「え?」
山瀬はわけが分からず、春野を見た。
「あの冷徹マネージャーに。そりゃあ、相当期待がかかってるはずだよ」
「えっ、き、期待、ですか!?」
「え、その前に、鍵……とか言ってなかった?」
「あ、はい。鍵は残業する時はマネージャーから預かって、それで朝また開けて。マネージャーが出勤してきたら返すようになっています」
「マネージャーが休みの日は?」
「えっ……さあ……いつも出勤してますけど」
「ああ、じゃあわざわざ鍵取りに寄ってるんだな」
「え、休んでないんですか!?」
「いや……それはお前もだろうよ」
春野はおかしそうに笑った。
「マネージャーは出勤日でもほとんど店の中にはいないよ。会議だなんだで本社にいることが多いから。だから、鍵取りに来てるんだよ」
「わ、わざわざ!?」
「まあ、1日預けるとこまで信用はされてないって事だろうけど。一晩持って帰らせるのもすごい」
「え、わりと初日から持って帰ってましたけど。面識ないのに」
「こっちが知ねーだけであっちは見てるんだろうよ。そういう人だから」
「そうなんですか……」
どういう状態なのかあまり理解できなかったので、なんとなく相槌に留めておく。
「敵、多くなるから気ぃつけとけよ」
「え、敵……ですか?」
「やっぱり店の中ではマネージャーってのは絶対的な存在だ。そいつにそこまで気に入られたとすると、黙っちゃいねーって奴も出て来ると思う」
「あ、棟方サブマネージャーにはさっそく言われました。センター長以上の仕事はするなって」
「ああ、あいつは大丈夫」
何故か春野は笑いながら言った。
「多分敵が多くなるって事を言いたかったんだと思うよ。頭良いし優しいからフォローもするし、盾にもなる。他に何か言われた?」
「今考えたら……定例会議出たからって調子に乗るなとか、補佐と代理の両立は仕事が多すぎるから代理は他の人に代わってもらった方がいいって……須藤マネージャーに直接、定例会議で言ってくれました」
「おぉ。大胆だな」
春野は目を見開いて口をすぼめた。
「俺は長く新都店にいるからよくわかるけど、須藤マネージャーは他のマネージャーに比べても絶対的な存在だ。本社の意思を的確に伝えるし、指示も狂いない。だから故、下がぎくしゃくしたりするんだけど。
でも今のサブマネージャーは粒ぞろいだから補佐してもわりと楽かもしんねえ」
そんな雰囲気では全くなかった事を思い出しながら、山瀬はまるまで納得がいったように頷いた。