孤高の貴公子・最高責任者の裏切り
「俺の勘では一番やべぇのが椎名(しいな)だな」
「椎名さん……とは?」
「え、会ってるだろ?椎名。修理の奴だよ。ふわふわのピンクの服着た奴」
え、まさか。
「フランソワさん?」
「誰それ?」
春野が目をぱちくりさせる。
「…………」
「ふ、ふらんす??」
「ふらんそわ、です。フランソワ……って、自分ではおっしゃってました。あの……いつも髪の毛にリボンつけてる……」
「(爆笑)そいつしかいねーわそんなの。フランソワって何それ??」
春野は眉間に皴を寄せて腹を抱えて笑った。
「いや、自分でそう言うんです!!で、私のことは女王様って呼びます」
だがすぐに笑いを押さえて、
「あんままともに取るな。椎名だよ、椎名。で、ちゃんと代理って呼ばせなきゃダメだろ。なんだ女王様って。SMクラブじゃねんだよ、ここは」
「…………」
女王様からSMクラブをすぐに連想する春野もどうかと思うが。
「なんか、その……椎名さんが棟方サブマネージャーのシフトを作ってるって言ってたんですけど、あれは何なんですか?」
「ふー……」
春野は深い皴を額に寄せて、目を閉じてベッドにもたれた。
「バカなんだよ。あいつは」
「え??」
どっちがですか、と聞こうとして、しばし待つ。
「棟方サブマネージャーを踏み台にして、その上で須藤マネージャーを物にしたいんだよ」
「も、ものに?」
「好きなんだろ。要するにどっちも」
「え、で、シフト作ってるんですか?」
「勝手に作って勝手に持って行ってるだけだよ。もちろん棟方は棟方で自分で作る。面倒だからとりあえず受け取ってるみてーだけど」
「…………、あんな忙しいのに。いつもパソコンの前でそんな事してるんですか……」
山瀬は呆れて、脱力した。
「もともと、修理ってのはルーチンワークが中心だ。考えなくても手だけ動かせばとりあえず仕事はできていく。つまり、どうでもいい奴の集まりなのさ。上の階からいらねー奴ばっかり降って来る。そういう図式だよ」
「…………」
フランソワや山本の顔が思い浮かんだが、他の何の言葉も思い浮かばなかった。
「さすがに、管理者は選ばれてるよ。そういうどうしようもない奴らを束ねなきゃいけねーし」
「…………」
「どした?」
春野は黙って山瀬の顔を覗き込んだ。
「たまに、未修理になることが確実の修理品をメーカーに出してます。その無駄を省くには、受付で除外するのがいいと思うんですけど。それを、できるようにはできないんですか?」
何故今そこまで考えが到達したのか、春野には分からなかったが、
「今修理受付で一番デキる、受付件数が多い奴が山本君だ。あいつをあそこまでにするのにも苦労したんだよ。ただ、あいつは修理できるかもしれないという信念の元に全部受けるってスタンスなんだ。それも間違ってねーからな。もうそれ以上はいわねー事にした」
「でも、予め、修理除外品リストと紹介すれば……」
「除外品リストの中でも、たまに部品が残ってて修理者の好意で修理してもらえることがある。可能性はわりと低いが、山本君はそれに賭けてんのさ」
「…………」
なら、仕方ない、か……。
「鳴丘サブマネージャーに、ここは相変わらず汚いって言われました。そんで、作業室の床にライン引いて分ければって」
「何を分けるんだよ」
春野は苦い顔をこちらに向ける。
「まあ、汚いのは認めるけど。掃除するとこまで手が回ってねーし」
「あ、結構適当に片付けました。作業室に時計もつけました」
「…………、あそう。そりゃ、楽しみだ」
言いながら春野はベッドにボスンと頭を落とした。
「あ、もう帰りますね。すみません長居して」
気付けば1時間喋り倒していた。明日退院だとしてもまだ春野は病人だ。もう少し気遣わなくては。
「えっと……名前なんだっけ?」
山瀬はようやく名乗っていないことに気付き、
「あっ、すみません。山瀬です。山瀬 美月です」
「家は店の近く? いや、セクハラ発言じゃないから」
どういうセクハラだと疑問に思いながら、
「えっと、お店から歩いて1分の借家です。社宅で3人で住んでます」
「ああ、借家ってことは男女ね」
「えっ、あそこってそういう場所なんですか!?」
「そだよ。あとアパートも2棟あるけど、一応そこは女性専用アパートと普通のアパートになってるらしい。女性専用以外は普通に男女だよ。女の割合の方が多いし、出入りも激しいからそんなことに一々構ってられないんだよ。でもその中でも借家は広いからマシだよ、ラッキーだったな」
「あ、まあ……そうですね」
「他は修理の奴じゃねーよな? 新規は1人だけだって聞いてたし」
「はい、上の家電と被服です」
「あそ……」
そこで会話が本当に一旦途切れ、山瀬は立ち上がった。
「椎名だけは気をつけといた方がいい」
春野は再度、厳しい顔で念を押した。
「気、気を付けるってどういうことですか? 」
「……あんまり頼んねー方がいい。極力データ入力以外はさせない事。それで俺も失敗したことあっから。だから変なシフト作っててあんな恰好しててもほっといてるってわけ」
「…………そうなんですか」
「怖いよー、女は」
「……ぽいですね……」
「椎名さん……とは?」
「え、会ってるだろ?椎名。修理の奴だよ。ふわふわのピンクの服着た奴」
え、まさか。
「フランソワさん?」
「誰それ?」
春野が目をぱちくりさせる。
「…………」
「ふ、ふらんす??」
「ふらんそわ、です。フランソワ……って、自分ではおっしゃってました。あの……いつも髪の毛にリボンつけてる……」
「(爆笑)そいつしかいねーわそんなの。フランソワって何それ??」
春野は眉間に皴を寄せて腹を抱えて笑った。
「いや、自分でそう言うんです!!で、私のことは女王様って呼びます」
だがすぐに笑いを押さえて、
「あんままともに取るな。椎名だよ、椎名。で、ちゃんと代理って呼ばせなきゃダメだろ。なんだ女王様って。SMクラブじゃねんだよ、ここは」
「…………」
女王様からSMクラブをすぐに連想する春野もどうかと思うが。
「なんか、その……椎名さんが棟方サブマネージャーのシフトを作ってるって言ってたんですけど、あれは何なんですか?」
「ふー……」
春野は深い皴を額に寄せて、目を閉じてベッドにもたれた。
「バカなんだよ。あいつは」
「え??」
どっちがですか、と聞こうとして、しばし待つ。
「棟方サブマネージャーを踏み台にして、その上で須藤マネージャーを物にしたいんだよ」
「も、ものに?」
「好きなんだろ。要するにどっちも」
「え、で、シフト作ってるんですか?」
「勝手に作って勝手に持って行ってるだけだよ。もちろん棟方は棟方で自分で作る。面倒だからとりあえず受け取ってるみてーだけど」
「…………、あんな忙しいのに。いつもパソコンの前でそんな事してるんですか……」
山瀬は呆れて、脱力した。
「もともと、修理ってのはルーチンワークが中心だ。考えなくても手だけ動かせばとりあえず仕事はできていく。つまり、どうでもいい奴の集まりなのさ。上の階からいらねー奴ばっかり降って来る。そういう図式だよ」
「…………」
フランソワや山本の顔が思い浮かんだが、他の何の言葉も思い浮かばなかった。
「さすがに、管理者は選ばれてるよ。そういうどうしようもない奴らを束ねなきゃいけねーし」
「…………」
「どした?」
春野は黙って山瀬の顔を覗き込んだ。
「たまに、未修理になることが確実の修理品をメーカーに出してます。その無駄を省くには、受付で除外するのがいいと思うんですけど。それを、できるようにはできないんですか?」
何故今そこまで考えが到達したのか、春野には分からなかったが、
「今修理受付で一番デキる、受付件数が多い奴が山本君だ。あいつをあそこまでにするのにも苦労したんだよ。ただ、あいつは修理できるかもしれないという信念の元に全部受けるってスタンスなんだ。それも間違ってねーからな。もうそれ以上はいわねー事にした」
「でも、予め、修理除外品リストと紹介すれば……」
「除外品リストの中でも、たまに部品が残ってて修理者の好意で修理してもらえることがある。可能性はわりと低いが、山本君はそれに賭けてんのさ」
「…………」
なら、仕方ない、か……。
「鳴丘サブマネージャーに、ここは相変わらず汚いって言われました。そんで、作業室の床にライン引いて分ければって」
「何を分けるんだよ」
春野は苦い顔をこちらに向ける。
「まあ、汚いのは認めるけど。掃除するとこまで手が回ってねーし」
「あ、結構適当に片付けました。作業室に時計もつけました」
「…………、あそう。そりゃ、楽しみだ」
言いながら春野はベッドにボスンと頭を落とした。
「あ、もう帰りますね。すみません長居して」
気付けば1時間喋り倒していた。明日退院だとしてもまだ春野は病人だ。もう少し気遣わなくては。
「えっと……名前なんだっけ?」
山瀬はようやく名乗っていないことに気付き、
「あっ、すみません。山瀬です。山瀬 美月です」
「家は店の近く? いや、セクハラ発言じゃないから」
どういうセクハラだと疑問に思いながら、
「えっと、お店から歩いて1分の借家です。社宅で3人で住んでます」
「ああ、借家ってことは男女ね」
「えっ、あそこってそういう場所なんですか!?」
「そだよ。あとアパートも2棟あるけど、一応そこは女性専用アパートと普通のアパートになってるらしい。女性専用以外は普通に男女だよ。女の割合の方が多いし、出入りも激しいからそんなことに一々構ってられないんだよ。でもその中でも借家は広いからマシだよ、ラッキーだったな」
「あ、まあ……そうですね」
「他は修理の奴じゃねーよな? 新規は1人だけだって聞いてたし」
「はい、上の家電と被服です」
「あそ……」
そこで会話が本当に一旦途切れ、山瀬は立ち上がった。
「椎名だけは気をつけといた方がいい」
春野は再度、厳しい顔で念を押した。
「気、気を付けるってどういうことですか? 」
「……あんまり頼んねー方がいい。極力データ入力以外はさせない事。それで俺も失敗したことあっから。だから変なシフト作っててあんな恰好しててもほっといてるってわけ」
「…………そうなんですか」
「怖いよー、女は」
「……ぽいですね……」