孤高の貴公子・最高責任者の裏切り
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(4年前)
それは、修理センター長の下の代理、代理の下の主任である椎名から全ては始まった。
当時俺はサブマネージャー。丁度今の棟方の位置にいて、マネージャーには年配のベテランがいた。
修理センターは今とは違い、きちんとした社員が幾人もおり、特に乱れた様子はなかった。
長は今と変わらず春野。代理は春野と相性の良い、子だくさんの男だった。熊のような体格で穏やかな性格から、周囲に人気もあり親しまれていた。
その下に椎名がいた。椎名は新入社員ですぐに主任にまで上がり、代理さながらの動きをみせ、サブマネージャーやマネージャーの間でも評価は高かった。
修理の件数も今の倍あったと思う。それでも、今と従業員の人数はさほど変わらなかったが、作業室に修理品が滞納している所など見たことはなかった。
そんな順風満帆な修理センターに異変が襲った。
代理が親の体調が悪く、急に田舎へ引っ越すと決まった後、代理をまだ入社一年の若い椎名に任せるのかどうか悩みかねていた時のことだった。
深夜、12時を過ぎていたと思う。
椎名がサブマネージャールームに静かに入って来たのは。
「シフト表を作ってきました」
何の話かと手にしているA3の用紙を見てみると、そこには、来月の今まさに俺が作ろうとしていた1、2階のフロアシフトがそこにあった。
「これは?」
その目を見て聞く。
「来月のシフトです」
「…………」
出来は悪くはない。むしろ、売り場に立ってもいないのにこれだけの物ができるのなら、充分すぎるくらいだ。
入社一年目にしてこの天才的なセンス。椎名は時を待たずして、サブマネージャーになることを予感させた。
「椎名、君が次の代理だ。春野センター長のサポートを頼む」
その時の自信に満ち溢れた笑みときたらまだ22、3の女とは思えないほどだった。
「承知いたしました。よろしかったら、朝のメールも全て印刷しておきますが。いかがいたしましょうか」
「構わない」
迷わなかった。俺は代理とマネージャー補佐に充てることを即決した。
実際その判断は誰も口出ししなかった。メールを開封するのに必要な権限者のログインパスワードを教えるのはマネージャーの判断も必要だったが、マネージャーも同じ判断を下す自信があった。
子供がまだ幼い春野を気遣う椎名は、シフトでも遅番を希望して取り、よく俺と残業をした。
飯を食いに行った事も何度もある。
休みの日もお互い仕事に出てきていた。
そんな中で、俺は椎名からの好意に全く気が付かなかった。
俺も彼女はいなかったが、それだけ忙しかったし、何も不自由していなかった。
つまり。
椎名からの好意は正直、とても邪魔に思えた。
自分では仕事のベストパートナーと思っていただけに、そんな些細な気持ちを全面的に告白という形で持ってこられたことがたまらなく嫌だった。
自然に俺は椎名を避けるようになった。
すぐその後だ。
椎名が、元代理をやめさせたのは、自分だと告白してきたのは。
「伝票操作をして受け取り金額を水増しし、自分の懐に入れていたのに気付いたので、解雇になる前にお辞めになった方がよろしいのでは、と提案して差し上げました。でもこれ、須藤サブマネージャーの管理不行き届きですよね?」
当時、マネージャー候補の推薦枠にはまり、身動きができない状態だった俺は……。
(4年前)
それは、修理センター長の下の代理、代理の下の主任である椎名から全ては始まった。
当時俺はサブマネージャー。丁度今の棟方の位置にいて、マネージャーには年配のベテランがいた。
修理センターは今とは違い、きちんとした社員が幾人もおり、特に乱れた様子はなかった。
長は今と変わらず春野。代理は春野と相性の良い、子だくさんの男だった。熊のような体格で穏やかな性格から、周囲に人気もあり親しまれていた。
その下に椎名がいた。椎名は新入社員ですぐに主任にまで上がり、代理さながらの動きをみせ、サブマネージャーやマネージャーの間でも評価は高かった。
修理の件数も今の倍あったと思う。それでも、今と従業員の人数はさほど変わらなかったが、作業室に修理品が滞納している所など見たことはなかった。
そんな順風満帆な修理センターに異変が襲った。
代理が親の体調が悪く、急に田舎へ引っ越すと決まった後、代理をまだ入社一年の若い椎名に任せるのかどうか悩みかねていた時のことだった。
深夜、12時を過ぎていたと思う。
椎名がサブマネージャールームに静かに入って来たのは。
「シフト表を作ってきました」
何の話かと手にしているA3の用紙を見てみると、そこには、来月の今まさに俺が作ろうとしていた1、2階のフロアシフトがそこにあった。
「これは?」
その目を見て聞く。
「来月のシフトです」
「…………」
出来は悪くはない。むしろ、売り場に立ってもいないのにこれだけの物ができるのなら、充分すぎるくらいだ。
入社一年目にしてこの天才的なセンス。椎名は時を待たずして、サブマネージャーになることを予感させた。
「椎名、君が次の代理だ。春野センター長のサポートを頼む」
その時の自信に満ち溢れた笑みときたらまだ22、3の女とは思えないほどだった。
「承知いたしました。よろしかったら、朝のメールも全て印刷しておきますが。いかがいたしましょうか」
「構わない」
迷わなかった。俺は代理とマネージャー補佐に充てることを即決した。
実際その判断は誰も口出ししなかった。メールを開封するのに必要な権限者のログインパスワードを教えるのはマネージャーの判断も必要だったが、マネージャーも同じ判断を下す自信があった。
子供がまだ幼い春野を気遣う椎名は、シフトでも遅番を希望して取り、よく俺と残業をした。
飯を食いに行った事も何度もある。
休みの日もお互い仕事に出てきていた。
そんな中で、俺は椎名からの好意に全く気が付かなかった。
俺も彼女はいなかったが、それだけ忙しかったし、何も不自由していなかった。
つまり。
椎名からの好意は正直、とても邪魔に思えた。
自分では仕事のベストパートナーと思っていただけに、そんな些細な気持ちを全面的に告白という形で持ってこられたことがたまらなく嫌だった。
自然に俺は椎名を避けるようになった。
すぐその後だ。
椎名が、元代理をやめさせたのは、自分だと告白してきたのは。
「伝票操作をして受け取り金額を水増しし、自分の懐に入れていたのに気付いたので、解雇になる前にお辞めになった方がよろしいのでは、と提案して差し上げました。でもこれ、須藤サブマネージャーの管理不行き届きですよね?」
当時、マネージャー候補の推薦枠にはまり、身動きができない状態だった俺は……。