孤高の貴公子・最高責任者の裏切り
2月
2/1 4人きりの食事会
木岡とはその後連絡を取り合い、打ち解けられたが、赤坂には碌に話もしてもらえなかった。ただ、話の勢いで、調理器具コーナーは来週水曜日までに何とかしますとタンカを切ってしまった。
今日は月曜日で、今週は既に1日終わっている。金曜日からは北海道だし……。
北海道を2日間にする……。ふとそんな案が浮かぶ。
そうだ、そうしよう!!
翌日の朝、飛行機を一つ手配してから須藤に直談判してみたる。だが、
「何が大事なのかはっきり見極めろ」
と一蹴りされ、何が大事なのか分からないままに、後から取った席はそのままキャンセルした。
その日火曜日はコーナーを手直しをする所を十分議論し、メーカーや社員と話し合いした上で木岡にOKをもらって深夜には什器の手配をかけられた。
ほぼ寝ないままに、水曜日が来る。午前中は補佐の仕事で潰れてしまったので、午後になって昨日出した什器のメールを確認するが返事はまだない。とりあえず電話したが、つながらず14時、空腹に気づいてパンコーナーで買ったパンを口にする。温かいコーヒーを買えばよかったと気づいたが、面倒なのでペットボトルの水を飲んだ。
「……もう少し早く、そうだな、助かる。こっちは女2人だから1人男を出してくれたら更に助かるんだが。……お前、俺に喧嘩売ってんのか? ダメだ。そんな使えない奴は。半日でいい。ああ、1人でいい、……うん、よし。悪いな。本当に助かる」
棟方の声で目が覚めた。
「あっ……」
私のピッチを棟方が手にしている。
「明日本社から1名男性の応援が什器を持ってくる。半日かけて全部組み立てるのを手伝ってくくれる」
「えー!!!」
輝く目で棟方を見た。
「すみません!!」
と、同時に謝る。
「あの……」
隣でいつからいたのか赤坂が立ち上がりながら声を出した。
「たかが調理コーナーの改装になぜ本社からの応援なんですか? 他にも応援が欲しいところはたくさんあります」
「俺の判断だ」
「そういうの、エコヒイキっていうんじゃないんですか?」
山瀬は固まった。だが、棟方は動じずつづける。
「調理コーナーが死にコーナーでそのテコ入れを急がせたのは赤坂の判断聞いて感心しているが、違うのか?」
「……」
「あと山瀬」
「はい!」
急に呼ばれて大声が出た。
「須藤マネージャーに北海道を2日にしたいと申し出たそうだな。調理が急ぐからと」
「…すみません」
「秘書はお前にしかできない。調理コーナーは指示さえ間違えなければ動く。その辺りの見極めができないんなら、先に俺に聞け。お前の立ち位置は、まずは俺の下だ。俺を飛び越えてマネージャーに掛け合うここと自体が間違っている」
「…すみません」
「以上」
棟方がドアの方を向いたと同時に須藤の顔が見えた。
「……」
目だけで分かったのか、棟方は、
「山瀬、須藤マネージャーが呼んでる」と2人で外へ出た。
「今夜だが、食事でもどうかと」
「え? 今夜ですか?」
棟方が驚いて聞いた。
「5人ほどになる予定だ。駅前のちゃんこ鍋で頼む。19時だ」
「……あっ、はい!」
「棟方、車は置いて行けよ。俺も飲むから」
「はい……あの、他に誰が……。前言ってた椎名の歓迎会ですか?」
「それを兼ねてもいいと思っている。被服の山田チーフ辺りがいれば、いいか?」
「あぁ、そりゃいいっすね」
棟方は急に上機嫌になる。
「じゃあ俺が誘っときます」
「いや、いい、自分で声をかけてみる」
残業したい時に限ってこれだ、と思いながら棟方と一緒に店を出る。山瀬はタクシーの中で溜息をついた。
「今日は飯食え。須藤マネージャーがここまでしてくれるなんて、滅多とないことだよ」
「そうなんですか?」
「ああ。お前が寝てねー、食ってねーことくらい、見れば分かる。それを案じて、だろうよ。そこにい一応椎名の歓迎会と名付けられるように、山田も手配したんだな。チーフがとりあえずいれば、平からの代表という見方もできる。しかもあいつは、盛り上げ上手の気配り上手だから」
だとしたら、わざわざこのタイミングでなんてもいいんじゃとむしろこのタイミングだけは避けて欲しかったと思いながら、店に着く。
「俺も山田と飲むの久しぶりだから。明日休みでよかったよ」
と、言いながら障子を開けた途端、
「………………」
上座2つは空席、そして3番目の席には
「お疲れ様です」
椎名、その隣は空席。それだけだ。
固まる棟方。
「あ、電話だ。ちょっと悪い」
と、障子を再び閉めた。
すぐに
「なんで席あんだけ!?」
電話ではないのだろう、席順のことでかなり困惑している様子だ。
「………お察しの……通りじゃないでしょうか。私は須藤マネージャーに言われたとおり、席は7人で予約しましたけど……」
「……くそっ、車置いてくんじゃなかった! ぜってー、ハメられたわっ!」
そう小声で一通り文句を言った後、息を整えて再び入る。
続いてすぐ、
「お疲れ」
入って来たのは、須藤1人だった。
どういう……。
山瀬と棟方はこっそり目を合わせる。
「山田は来なかったんすか?」
棟方は座りながら横目で聞いた。
「話し行ったら19時には来られそうになかったから、誘うのをやめた」
私だって思いっきりそうなんだけど!
「ここ、一度来てみたかったんだ。良い雰囲気だな」
およそちゃんこ好きらしい雰囲気など普段、みじんも出さない須藤からは、想像もできないセリフだった。
「じゃあまず、ドリンクを……」
そうだ。それに徹すればいいと思い始まった飲み会は、椎名が満足そうに須藤に話しかけ、須藤はそれになんとなく答えたり、棟方に話をふったり。その返しに困った棟方がこちらに振り返すというただ会話に詰まる会になったのは、当然のことで、グラスのビールが次々になくなっていく。
飲みすぎてはいけないと分かっているが、耐え切れない沈黙も多く、話かけても空回りすることもしばしばで、時間だけが気になって仕方ない。
まあ、椎名だけは満足してはしゃいでいるようなので、それはそれでいいが。
苦痛な1時間もなんとか酒のおかげでようやく、そろそろお開き、というタイミングで須藤がトイレに立ち、続いて椎名も立ったので2人きりになる。
「はあ……全然酔えねえ」
それなりに飲んでいた棟方は、苦い顔をしながら胸ポケットから煙草を取り出し、すぐに火をつけた。
「…まあ、でも、椎名さん満足そうだし。須藤マネージャーに一筋、というかそういうところがみられただけでも良かったですよ」
「そんなのに付き合わされてうんざりだ。今日は一体何の会だったんだよ」
来る前、お前を食わせてどうこう、と言っていたがそれだけではなさそうだということが分かり、どうも面白くなかったようだ。
「それにしても、山田さんいなかったからって他の人誘わなかったんですね」
「……しらねー……」
もうどうでもいいようだ。
「私も飲むんじゃなかったなー。今22時だから、今から仕事できるし」
「どんだけ調理コーナーに手かけりゃ気が済むんだよ」
「だって赤坂さんが」
「だろ? どうせあのおっさんと張り合ってるんだろうが。くだらねー。お前はただの役職者じゃねーんだああいうのに合わせるな。自分の仕事をやれ」
「だって……」
そうこうしている間に2人は帰ってきて、須藤が全額支払い店の前で別れた。
方向が同じ棟方と山瀬は同じタクシーで帰ることがすぐに決まったが、椎名は「ご一緒します」と須藤に言い切ったものの、結局置いていかれた。
どうやら、そこまでそういう関係ではなかったようだ。
※ 「力強い腕 挑発的な言葉 優しい眼差し」に続きます。
今日は月曜日で、今週は既に1日終わっている。金曜日からは北海道だし……。
北海道を2日間にする……。ふとそんな案が浮かぶ。
そうだ、そうしよう!!
翌日の朝、飛行機を一つ手配してから須藤に直談判してみたる。だが、
「何が大事なのかはっきり見極めろ」
と一蹴りされ、何が大事なのか分からないままに、後から取った席はそのままキャンセルした。
その日火曜日はコーナーを手直しをする所を十分議論し、メーカーや社員と話し合いした上で木岡にOKをもらって深夜には什器の手配をかけられた。
ほぼ寝ないままに、水曜日が来る。午前中は補佐の仕事で潰れてしまったので、午後になって昨日出した什器のメールを確認するが返事はまだない。とりあえず電話したが、つながらず14時、空腹に気づいてパンコーナーで買ったパンを口にする。温かいコーヒーを買えばよかったと気づいたが、面倒なのでペットボトルの水を飲んだ。
「……もう少し早く、そうだな、助かる。こっちは女2人だから1人男を出してくれたら更に助かるんだが。……お前、俺に喧嘩売ってんのか? ダメだ。そんな使えない奴は。半日でいい。ああ、1人でいい、……うん、よし。悪いな。本当に助かる」
棟方の声で目が覚めた。
「あっ……」
私のピッチを棟方が手にしている。
「明日本社から1名男性の応援が什器を持ってくる。半日かけて全部組み立てるのを手伝ってくくれる」
「えー!!!」
輝く目で棟方を見た。
「すみません!!」
と、同時に謝る。
「あの……」
隣でいつからいたのか赤坂が立ち上がりながら声を出した。
「たかが調理コーナーの改装になぜ本社からの応援なんですか? 他にも応援が欲しいところはたくさんあります」
「俺の判断だ」
「そういうの、エコヒイキっていうんじゃないんですか?」
山瀬は固まった。だが、棟方は動じずつづける。
「調理コーナーが死にコーナーでそのテコ入れを急がせたのは赤坂の判断聞いて感心しているが、違うのか?」
「……」
「あと山瀬」
「はい!」
急に呼ばれて大声が出た。
「須藤マネージャーに北海道を2日にしたいと申し出たそうだな。調理が急ぐからと」
「…すみません」
「秘書はお前にしかできない。調理コーナーは指示さえ間違えなければ動く。その辺りの見極めができないんなら、先に俺に聞け。お前の立ち位置は、まずは俺の下だ。俺を飛び越えてマネージャーに掛け合うここと自体が間違っている」
「…すみません」
「以上」
棟方がドアの方を向いたと同時に須藤の顔が見えた。
「……」
目だけで分かったのか、棟方は、
「山瀬、須藤マネージャーが呼んでる」と2人で外へ出た。
「今夜だが、食事でもどうかと」
「え? 今夜ですか?」
棟方が驚いて聞いた。
「5人ほどになる予定だ。駅前のちゃんこ鍋で頼む。19時だ」
「……あっ、はい!」
「棟方、車は置いて行けよ。俺も飲むから」
「はい……あの、他に誰が……。前言ってた椎名の歓迎会ですか?」
「それを兼ねてもいいと思っている。被服の山田チーフ辺りがいれば、いいか?」
「あぁ、そりゃいいっすね」
棟方は急に上機嫌になる。
「じゃあ俺が誘っときます」
「いや、いい、自分で声をかけてみる」
残業したい時に限ってこれだ、と思いながら棟方と一緒に店を出る。山瀬はタクシーの中で溜息をついた。
「今日は飯食え。須藤マネージャーがここまでしてくれるなんて、滅多とないことだよ」
「そうなんですか?」
「ああ。お前が寝てねー、食ってねーことくらい、見れば分かる。それを案じて、だろうよ。そこにい一応椎名の歓迎会と名付けられるように、山田も手配したんだな。チーフがとりあえずいれば、平からの代表という見方もできる。しかもあいつは、盛り上げ上手の気配り上手だから」
だとしたら、わざわざこのタイミングでなんてもいいんじゃとむしろこのタイミングだけは避けて欲しかったと思いながら、店に着く。
「俺も山田と飲むの久しぶりだから。明日休みでよかったよ」
と、言いながら障子を開けた途端、
「………………」
上座2つは空席、そして3番目の席には
「お疲れ様です」
椎名、その隣は空席。それだけだ。
固まる棟方。
「あ、電話だ。ちょっと悪い」
と、障子を再び閉めた。
すぐに
「なんで席あんだけ!?」
電話ではないのだろう、席順のことでかなり困惑している様子だ。
「………お察しの……通りじゃないでしょうか。私は須藤マネージャーに言われたとおり、席は7人で予約しましたけど……」
「……くそっ、車置いてくんじゃなかった! ぜってー、ハメられたわっ!」
そう小声で一通り文句を言った後、息を整えて再び入る。
続いてすぐ、
「お疲れ」
入って来たのは、須藤1人だった。
どういう……。
山瀬と棟方はこっそり目を合わせる。
「山田は来なかったんすか?」
棟方は座りながら横目で聞いた。
「話し行ったら19時には来られそうになかったから、誘うのをやめた」
私だって思いっきりそうなんだけど!
「ここ、一度来てみたかったんだ。良い雰囲気だな」
およそちゃんこ好きらしい雰囲気など普段、みじんも出さない須藤からは、想像もできないセリフだった。
「じゃあまず、ドリンクを……」
そうだ。それに徹すればいいと思い始まった飲み会は、椎名が満足そうに須藤に話しかけ、須藤はそれになんとなく答えたり、棟方に話をふったり。その返しに困った棟方がこちらに振り返すというただ会話に詰まる会になったのは、当然のことで、グラスのビールが次々になくなっていく。
飲みすぎてはいけないと分かっているが、耐え切れない沈黙も多く、話かけても空回りすることもしばしばで、時間だけが気になって仕方ない。
まあ、椎名だけは満足してはしゃいでいるようなので、それはそれでいいが。
苦痛な1時間もなんとか酒のおかげでようやく、そろそろお開き、というタイミングで須藤がトイレに立ち、続いて椎名も立ったので2人きりになる。
「はあ……全然酔えねえ」
それなりに飲んでいた棟方は、苦い顔をしながら胸ポケットから煙草を取り出し、すぐに火をつけた。
「…まあ、でも、椎名さん満足そうだし。須藤マネージャーに一筋、というかそういうところがみられただけでも良かったですよ」
「そんなのに付き合わされてうんざりだ。今日は一体何の会だったんだよ」
来る前、お前を食わせてどうこう、と言っていたがそれだけではなさそうだということが分かり、どうも面白くなかったようだ。
「それにしても、山田さんいなかったからって他の人誘わなかったんですね」
「……しらねー……」
もうどうでもいいようだ。
「私も飲むんじゃなかったなー。今22時だから、今から仕事できるし」
「どんだけ調理コーナーに手かけりゃ気が済むんだよ」
「だって赤坂さんが」
「だろ? どうせあのおっさんと張り合ってるんだろうが。くだらねー。お前はただの役職者じゃねーんだああいうのに合わせるな。自分の仕事をやれ」
「だって……」
そうこうしている間に2人は帰ってきて、須藤が全額支払い店の前で別れた。
方向が同じ棟方と山瀬は同じタクシーで帰ることがすぐに決まったが、椎名は「ご一緒します」と須藤に言い切ったものの、結局置いていかれた。
どうやら、そこまでそういう関係ではなかったようだ。
※ 「力強い腕 挑発的な言葉 優しい眼差し」に続きます。