Delete
高校1年生も終わろうとしている3月のある日。
彼女は、教室の一番隅かつ最後列の席でいつものように1人座って読書をしていた。
今が話しかける絶好のチャンスだ。
少年はそう思った。
少年の席は彼女とは対角線の方向にあり、さらに最前列であるため、彼女との距離は誰よりも遠い。
一体どれだけ歩み寄ればいいのだろうか。
ガラガラと椅子の足で床を擦りながら立った。
けれども少年の両脚は、緊張しているのか小刻みに震えていた。
一歩や二歩じゃ届かない。
彼女の表情がはっきりと見える距離に至るまでの時間が、とても長く感じた。