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お母さんが部屋を出てドアを閉めた直後、
「寝すぎ」
ふわりとした風とともに突然そんな言葉が聞こえた。低めのトーンだった。丸みのある柔らかな声だったけれど、男の人なのだという想像はついた。
声のする方を辿る。発信元はこの部屋の外だった。
お母さんが開けた窓から外を覗くと、そこには私と同い年くらいの見たこともない少年が立っていた。
そして私と目が合うや否や、ブロック塀をまるで忍者のように軽々と飛び越えて屋根の上に上がり、窓から顔を出す私の前までやって来た。
髪は赤色と茶色が混ざったような色。そして少し癖のあるような感じで、前髪は目にかかるくらいの長さ。その隙間から覗く瞳はだるそうでやる気がなさそうなのだけれど、大きくて透明感のある綺麗な赤色をしていた。
フードのついたグレーのパーカーのファスナーは半分まで開けられていて、そこからは模様のないブラックの服が見えた。
窓の縁を上手い具合に掴んでいる腕にはリストバンドやらブレスレットやらが身につけられていた。
第一印象は? と聞かれると、私は一言でこう答えるつもりだった。チャラい。
というかこれは、俗に言う“中二病”というやつだと思った。