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言葉にしないまま彼の方を見ていると、それを察知したかのように彼は言った。


「俺は何でも知ってるよ。全部見てたからな」


全部、見ていた……。一歩間違えればそれはストーカーです宣言をしたものとして捉えられる危険性があるのだけれど、今の私はそんなことを考えるほど余裕ではなかった。


全部見ていた。どこで。何を。


答えになっていないような答えに戸惑っていると、彼が再び口を開く。


「お前のことは全部知ってる。俺が近くにいたことをただお前が知らないだけ。……まあ難しいこと言ってもわからないだろうから、かいつまんで簡単に言うぞ」


彼がそう前置きするものだから、それがますます意味深に感じてしまい私は息を飲んだ。


「俺はあの場所の近くから偶然見たんだ。で、ついさっきお前は死んだ」





――……え?





私の頭の中は一瞬で真っ白になった。


死んだ? 私が? 


それは、“あのとき”のことをまだ思い出せていない私には信じられるわけもない、衝撃的すぎる言葉だった。


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