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「一つだけいいこと教えてやるよ」壁にもたれかかって彼は言った。
「俺は時間を戻すことができるんだ。――見ろ」
言いながら彼は何かを指差した。それを目で追うと、勉強机に置かれたデジタル時計に辿り着いた。彼の説明なしでも、彼が何を言おうとしているのかがなんとなくわかった。
私は確かに6月25日を迎えていた。記憶をいちいち探さなくても、その日のことはちゃんと引き出せる。でもこのとき見た時計は、それよりも5日も前である6月20日を示していたのだ。
――――嘘だ……。
ありえない。こんなこと、ありえるはずがない。
「俺も最初は驚いたさ」と彼は言うけれども驚いた様子は皆無で、むしろ完全に落ち着いている声だった。
「まさか時間を戻すなんていう現実に起こりえないことをやってのける能力が自分にあるなんて誰も思わないだろ。でも、現に俺にはそれが可能だ。ま、俺もお前と同じってわけさ」
なんだかまだ信じられない言葉をずらりと並べすぎて私の頭がついていかない。そもそも私にはそんな力なんてない。どこが同じだと言うのだ。
「それから――」人差し指を立てて付け加える。
「タイムリミットは6月25日の午後5時37分12秒な」
正体のよくわからない少年。
それがお前の命日だ。彼はそう言った。