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「シイナ」
あたしは名前を呼んだ。
かつての、親友の名前を。
彼女もまた、帰ろうとしているところだった。
「…………?」
言葉を発することなくこちらを振り向いたその顔は、まるで嫌な予感でもしたかのようなものだった。
――さすがシイナ。わかってんじゃん。
彼女が何か言ったわけではないけれど、あたしにはそれがわかった。
「ちょっと、来てくれない?」
このときのあたしは、きっと笑えていなかったんだと思う。
いつものような仮面をつけることはできなかった。
いや、違う。
できなかったんじゃなくて、そうしなかったんだ。
いつものように振る舞ったところで意味はないのだとわかっていたから。
シイナは黙ってついてきた。
一緒にいた二人も黙っていた。
きっと彼女たちは察しているだろうから。