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“シイナ”という人間は、あたしにとってはただの人間だった。
ただそこにいるだけの存在。
でも、誰にも気づいてもらえない存在。
もともと影が薄いくせに目立たないから、余計にみんなの視界に入らないのだろう。
あたしだって彼女のことを気にしていなければ、もうとっくの昔にあたしの中から“シイナ”という存在は消えていたと思う。
というよりも、そもそも視界にすら入っていなかったことだろう。
あたしに彼女が見えたのは、偶然と言ってもいい。
……奇跡だなんて、絶対に言いたくない。
そんなのあたしがごめんだっての。
でもまあ、それは今はどうだっていい。
もういつだったか忘れたけれど、偶然見えたそのときに、あたしはシイナに声をかけた。
何て言ったかももう覚えていない。
でも、それが間違っていたんだって後になって思ったことはよく覚えている。
「……ついて来ないでくれる?」
シイナと行動することに疲れを感じ始めたあたしがそう言うと、
「でもミオ、私はミオといたいから」
へらりとした顔で彼女はそう返してきた。
「そういうの、ほんと嫌いなんだけど」
「だけど、他の人といるより楽しそうだよ?」
「……は?バカ言わないでくれない?あんたなんかといるよりよっぽどマシだから」
「……そうなんだ。じゃ、私も頑張るよ」
何をどう頑張るのかなんてもちろんのことあたしは知らない。
そんなこと気にもならなかったし、気にしようとも思わなかった。
でも。
彼女のその言葉たちは、周囲の連中とは違っていた。
あたしにはわかる。
わかるんだ。あたしには――。
それ以降も、あたしが何度突き放そうが彼女はあたしの側にいた。
…………ほんと、鬱陶しいことこの上ない。
――いなくなればいいのに。
いつの日かあたしがトモダチにそう話す内容が、これである。
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