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――――――。


あたしは飛び起きる。


なに、今の……。


突然聞こえた変な声。


……自由?どういうこと?


混乱がおさまらなかった。


誰がどこで囁いたのだろう。


……いや、囁いたとかじゃない。


あの声はあたしの名前を知っていた。だからあたしに向けて発された言葉に違いないのは確かだ。


それに、誰の声かなんて考える必要もない。


だって、あたしはあの声を誰よりもよく知っているのだから。





シイナだ。





だけど、シイナだとすればまだよくわからないことがある。


確かにあたしはあの子と行動することに疲れていた。


いつまでもどこまでもついてくるあの子を鬱陶しいと感じていた。


でも、あたしは距離を置いた。


だから言ってしまえば今は自由なのだ。


あたしが自分自身で自由になったのだ。


もう誰かから自由を与えられる必要もないし、ましてシイナからなんてもってのほかだ。


今日会ったときはいつもと変わらないような気もしたけれど、やっぱりあの“違和感”のことを思うといつもと同じというわけではないのだろう。


何を考えているのかわからない。


あのへらりとした顔で、あたしを何かとんでもない状況に陥れようとしているのかもしれない。


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