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結局数学の先生は来ないまま、迎えた三限目。


科目は国語――現代文。


「……あれ?」


現代文担当の男性教師が教室に入って教壇に立つ。


そこまでは別に問題はないのだが、出席簿を開くや否や、彼は怪訝そうな顔をした。


「さっきの授業、何だった?」


出席簿に二限目の記録がないことを不思議に感じたのだろう、彼はあたしたちにそう尋ねたのだ。


「数学だったんですけど…」女子代表委員が答える。


「先生が来なかったんです」


「…え。あの先生が?」


この現代文教師が驚くのも無理はない。


その数学の先生は生徒のことは全くの無関心だったけれども、自分が数学を教えるということに対しては本当に没頭していた。


あの先生は、ただ自分のやり方で数学を他人に教えられればそれでよい、という人間だった。


もっと簡単に言えば、ただ数学を教えたいだけ。


わかりやすいもクソもない。


他人に教えることで自分が満足できれば、あの数学教師はもう何もいらないのだ。


自分が満たされたいがために数学を教えているようなもの。


あの人から数学を取ってしまえば何も残らない。


あの数学教師は、そういう人間だった。


「今朝は間違いなく来ていたんだが…どうしたんだろう。珍しいね、数学だったのに突然来ないなんて」


現代文教師が言うことは、みんなが理解できていた。


現代文教師が言ったことに間違いはなかった。


数学教師は、確かに学校に来ていた。


ただ――。


誰にも見つかっていないだけで、彼の行方を知っている者は、ただ一人だけなのである。


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