花ビラ、ヒラリ
「おはよー、あゆちん」
「あっ、おはよ」
今、上手く笑えてるかな?でもこういうことは考えない方が良いって確か言われた気がするなぁ。よし、大丈夫!

下を向かない。上を向く。

いつしかこの言葉が私の合言葉の様なものになっていった。いつだって上を向けば気分も上を向いたから。

「おいっ、聞いてるか!篠崎ー!」
「あっ、はぁぁい!すいませーん。」
相変わらず授業はこんなんだけど、授業サボるよりマシだろう。それに私の心の都合は所詮私事だから何も言わないけど、寝かせてくれたって良いじゃんね。

帰りのSHRが終わった。手帳を見たら''カウンセラー''の文字。私は最近、先生の勧めでカウンセリングを受けている。今日は放課後その日なんだ。カウンセリングの先生も結構優しい方でやっぱり仕事にしているだけの事もあって私の心の大きな支えになりつつある。
「もっと自分の為に頑張ろうよ」
よくカウンセラーの朱美先生はそんな事を言う。でも私には結構難しいことだからいつもいつもその話は反らし気味だ。

私は今日思いきった相談をした。増えてくリスカの傷跡が怖いと。眠れない夜が怖いと。雨の日が恐ろしいほど怖いと。毎日毎日訳も分からない不安に襲われると。生きてる心地がしないと。頑張りたい自分を自分が邪魔をすると。全部言ったらある程度すっきりした。心が軽くなったみたいで、清々しい気分に浸った。それでも体に表れる症状は止まなくて、吐き気と息苦しさが毎日を襲ってくる事を打ち明けた。すると朱美先生は薬を渡してくれた。いわゆる向精神薬。辛い時には飲んでみようと渡してくれた。

あぁ私病気なのか…

とホッとしたでもないガッカリでもない複雑な気持ちで脱力してしまった。身体にある全ての筋肉が機能を停止したように身体が重く感じた故に頭はびっくりする程に軽く感じた。

でもこれで良かったんだと思うことにしよう。良かったんだ。大丈夫だと強がりながら何も訳の分らない恐怖に襲われるよりも、いっそ大丈夫ではないと認めてしまえば楽になるはずだと。私の闘いはまだまだ始まったばかりだ。あくまでもこれは私の問題だから人に世話を焼かせたくはなかったし、正直、人をどこまで頼っていいものか分からなくなっている。それでも頭の中に浮かぶのは
「先生がいるから。大丈夫だ。」
っていう先生の顔と優しさだった。

カウンセリングが終わったけど、急に先生に会いたくなった私は職員室に駆け込んだ。だいぶ私は問題児になってしまって私の顔を知らない先生はいないんではないだろうか。ある女性の先生が
「どうした?あっスカート短いぞぉ!」
「良いじゃん、別に!スカートぐらい!おけちぃー!」
なんて言ってる私にどんな先生も笑顔を向けてくれた。誰1人としてほっとく先生はいなかった。そんな先生に私は甘えていたのかもしれない。幼き頃から今まで素の自分で親に甘えられない私の欲は全て優しい先生達が受け止めてくれた。

こうして世界は愛で包まれてる。きっとどんな人も必ず愛してくれる人はいるという事実。最近分かり始めた事実だけどもきっと大きな事なんだと身に染みて痛感した。

そうしているうちに先生は出てきた。
「どうした?」
「先生、カウンセリング受けてきたよ。勧めてくれてありがとね。助かったよ。本当にありがとう。」
「そうか!良かった。じゃあ、また明日な。」

うん。また明日。この言葉大好きだよ、
先生。また明日もちゃんと私のこと待っててくれてるような気がして、きっとどんなことがあっても学校へ行くよ。

「ただーいま。」
「おかえりー。」
家に帰ると必ず待っててくれる人がいる。そんな事にも少しずつではあるが分かり始めた。温かさは感じられなかったけど何かが溶け始めた証がもうそろそろ出てくる頃だと信じて。



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