届かなくても、
夏の吹奏楽コンクール。
私達はその日の為に練習してきたわけだが
そんな夏はあっけなく終わった。
一緒にいられるのも最後だと泣く先輩。
それにもらい泣きする同級生や後輩たち。
泣くほどの努力なんてしてないくせに。
所詮弱小吹奏楽部だ。
この部活の水準は決して高くない。
彼は目を潤ませているだけ。
何も知らない人から見たら
泣くのを我慢しているように見えるだろう。
だが、彼は周りになんとなく合わせているだけだ。
彼にとっては先輩が引退しても
何とも思わないのだろう。
彼の関心のなさには本当に呆れてしまう。
帰りのバスの中では
普段の話し声、笑い声が飛び交っていた。
女子っていうのは、切り替えが早くてついていけない。
男子部員の人数は奇数のため、
女子の誰かは男子と同じ座席に座らなければならない。
バスは一番最後に乗り込んだため、
運が悪いことに男子が隣になってしまった。
しかも相手は、同じ学生指揮者の清水 修也(シミズ シュウヤ)。
何事に対しても努力家、エレクトーン奏者で頭がとにかくいい。
しかし、修也の無自覚威圧的オーラは
誰もがひれ伏すものなのだ。
だが勘違いしないでほしい。
修也はとても気さくなのだ。日常生活では。
「今日負ける事、希子ちゃん分かってたでしょ。」
唐突に言われると、さすがに戸惑う。
「俺も負けるのわかってたよ。
最初のサウンドまとまりなかったし。
あれじゃ負けるよね」
確かに負けると分かってはいたが、
一体修也は何が言いたいのだろう。
「分かってはいたよ…
信じたくなかっただけで。」
私がそう漏らすと、修也はにこやかに笑う。
「君が正式な学生指揮者についた方がいいよ」
修也は私に有無を言わさず、窓を向いた。
次々と流れてくる景色より
遠くにあるものに目を向けているように
視線が外れている。
私が学生指揮者をやったところで一体どうなるんだろう。
実力は彼の方が上のはずなのに。
私は修也の言葉の意味を考えながら
ゆっくりと意識が遠のいていった。