届かなくても、
笑われ拗ねた私は、ムスッとした顔で通路側を見た。
…斜め前に彼がいた。
後ろを向いて話していた彼と目が合った。
しかしすぐにフイッと視線を外され
また後輩と話し始めた。
まぁ、こんなもんだよね。
意外とコミュ障の彼のことだ。
目を合わせようともしない。
「姫。次期学指揮は希子ちゃんでいいよね?」
学指揮というのは学生指揮者の略だ。
姫に聞くのもどうかと思う。かといって
後輩を贔屓する先輩に聞くのも。
姫は笑顔で頷く。
とそこに仮面女が割り込んできた。
「えぇ~?きーさん学指揮やるのぉ?
絶対修也君やった方がいいってぇ~」
「俺、別に君には聞いてないよ」
なんてはっきりと言ってくれるんだい!?
睨まれるのこっちなんですけど!?
そんな目の訴えにも気づかず
修也は涼しい顔をしている。
「でもさぁ~そういうの決めるのは私達でしょぉ~?
関係ないなんてことはないんじゃぁん。
ねぇ?きーさん」
なんでそこで話題をこっちに振るんだよ!!
心の中でツッコミを入れる。
修也がまいた種だというのに、
当の本人は知らん顔。
無責任すぎるでしょ…
「さ、さぁ…」
「えぇ~。ちゃんと答えてよぉ」
しつこいな。
分かっててやってる間延びした声やめてほしい。
殴りたくなる。
「別にさ、どっちだっていいじゃん」
不意に蛍が助け舟を出してくれた。
さすが。頼りになる。
しかし、この女も負けてはいない。
「どっちでもよくないよぉ~。
私達がこの部活を引っ張っていくんだよぉ?
蛍君にも関係あるしぃ」
「少なくとも引っ張っていく中に
俺は含まれないし、含まれたくもないから」
ぴしゃりと言い放つ。
どうやら、彼は助け舟を出したわけではなかったようだ。
説明しわすれたが、この仮面女は
蛍のことが恋愛感情的な意味で好きなことでも知られる。
女子を牛耳ってるような奴だから
男子に好まれてはいないけど。
二人の言葉が私の頭上で飛び交う。
私はターゲットから外れたようだ。
早く帰りたい。
息を潜めていないと目をつけられてしまうような部活なんて
つまらなすぎて反吐が出る。
私はその反吐を一気に吐き出すように大きく息を吸い、吐いた。