届かなくても、
楽器を吹いている時もずっと



頭は彼の事で一杯だった。



二人で帰ろう、なんて変なの…



そんな誘い、初めてかもしれない。



高音を外すといつも吹きなおすくせに



私は吹きなおせなかった。



なんか気分じゃないし。



通りすがった姫が私の不可思議な行動に違和感を覚えたのか



すっごい見られたけどそれさえお構いなし。



だって、周りのことまで考えてる余裕なんてない。



こんなの初めてだもの。




「はぁ~…」



「どうしたんすか?」




後輩が聞いてきたけど適当に返して終わる。



部活終了まで時間が迫っている。



時が早く来てほしいと思う反面、



拒否している自分もいる。



そもそも『そういう話』じゃないかもしれない。



調子に乗っちゃいけない。



気を引き締めなくちゃ。




さっき外してしまった高音を



狙って音を当てた。
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