届かなくても、
「分かるよ、そこまで言われたら…」



「そうっすよ、先輩。」




「…柳瀬。」





修也がそう呟いた。




声の主は、かつて後輩だった柳瀬慎。




チェックのシャツにジーンズを合わせ





黒縁眼鏡を掛けたスタイルは





下手するとモデルにさえ見えてしまう。




『柳瀬』、か。





久しぶりに聞いた気がする。




柳瀬が口を開く。






「愛されてんだから。



あんたが思ってる以上に




蛍先輩はあんたのこと愛してるんだよ。」




「うぅ……っ……けい……




会いたい………っ」





「じゃ、俺はこれで。




柳瀬帰るぞ。」



「は!?



俺今コーヒー飲む為に来たんだけど!!」




「ガキはカフェオレでも飲んでろ。




それと敬語、な。」




「は~い…」





修也は柳瀬を無理矢理引きずっていった。




カラン、カランとドアについているチャイムが鳴る。




それを見届けたように





目からボロボロと涙が零れた。




その理由なんて決まってる。
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