届かなくても、
「きーさん」


彼は私のことをそう呼ぶ。


彼だけではない、他の人もだ。



発音が何だかいいづらい私の名前にきーさんというニックネームを誰かがつけた。



彼は、ほかの人のことをほとんど苗字で呼ぶ。



特別扱いされたような気がするのはきっとこんな感情を持って自分中心の世界に浸っているからかもしれないが、正直に嬉しく思う。



「きーさん。無視しないで。」



さっきから声を掛けてきていたのは、今私が説明していた人物。



そう、蛍だ。




「早く指揮してよ。急に腕止まったからびっくりしたんだけど。」



「うぇ?あぁ…」



今は部活中。



基礎合奏と言って音を合わせたり音階を合わせたりする。


学生指揮者…


先生不在の際に指揮をする役職に私はついている。


絶対音感を持っている人間はもう一人いるが、今日は部活を休んでいる。



「きーさん!!」


「…あぁうん。デイトレお願いします。」


「「「はい!!」」」



部員に指示を出すと気持ちいい返事が返ってくる。


一部返事をしていない人もいる。


そんなやる気のない奴は放っておく。


それが私のポリシーだ。


私はいつも通り指揮を振った。
< 4 / 213 >

この作品をシェア

pagetop