届かなくても、
「てぃやっ」


「ていやっじゃねーよw頭掴むなw」





そう言って私の手をはたきおとす彼。


ちょっとショック。



彼は若干私より身長が小さい。



私の目線より低い彼の頭を掴むと



やっぱり髪の毛はごわごわしている。



彼は私の頭を軽くぺしっと叩くと既に片付け終わった楽器を持って準備室へ向かった。



自分がどんな性格なのかは知らない。



恐らく、ピアノが弾ける腹黒い読書家だと思う。



もちろん推測だけど。



好きな人に猫のように逃げられた私はそのままサックス奏者の友達の所へ向かう。



「姫ー」



「希子さ~ん!!」




根はいい子。お嬢様気質(無自覚)なのに腐女子という独特な組み合わせ。


彼女は女子を、~さんと呼ぶ。


男子は呼び捨て。


気迫がある熱血系女子である。


彼女の名は、姫路 杏(ヒメジ アン)。


その苗字の頭をとって、姫。


彼女もまた絶賛恋する乙女である。



「希子さん今日ぼーっとしてたね。」

「色々考えてた。」

「希子さんが!?嘘!!珍しい!!」


「なんか失礼な意味に聞こえるんだけどw」



彼女は10人程度いる同級生の部員の中で最も信頼のおける人間だ。



同級生の部員は基本苦手で関係は持たないようにしているが彼女とはよく遊びに行く。



そして突然振ってくるこの話題。




「早くくっつきなよ~」




彼女は必ず彼との話題を持ち出す。



面白がっている訳ではないのだろう。


彼女の心境は恐らく娘の近況を聞く親の気分だと思う。




「いいんだよ、くっつかなくても」



「くっつきなさい。和菓子おごるから」



「え?食べ物で釣るの?w」



「絶対めぃめさん希子さんの事好きだって!!」





彼女の口癖となっている。



あ、ちなみにめぃめとは彼のあだ名だ。



ボリュームのある髪の毛からそう名づけたらしい。



触り心地は全く羊じゃないけど。





「好きな人いないって言ってたよ?」



「そんなの嘘だって!!



だってめぃめさん希子さんに何気優しいじゃん!!」



「いや、誰にでもだと思うよ?」





彼女の言葉はストレートなだけに、胸に刺さる。



だから聞くのが辛い。


何度も言うように、そんなドラマのようなこと


ある訳ないのだから。絶対に。
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