届かなくても、
パタパタと足音がこちらに来る。




真っ暗の教室に蛍光灯が光った。





眩しくて目を瞑る。





「…先輩」







梶山くんだった。




梶山君は反応せずに目を瞑ったままでいる私の頬に





私のトランペットをギュッと押し付けた。





冷たい。でもなんか体が冷えちゃいそう。






涙の筋に当てられたトランペットを


静かに受け取る。





きっと、梶山くんは気づかない。






いや、気づかせない。





思いっきり楽器を吹いた。





パァンッと鋭い音が教室に広がる。




「sing sing sing」




あの曲カッコいいよなぁ。




「Get it on」もカッコいいなぁ。





吹きたいな。




Get it onはサックスがカッコいい。




sing sing singはソロが色んな楽器にある。





「我慢しなくていいんですよ?先輩」
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