届かなくても、
「いいんだ、もう」





私は梶山くんの声にそう答えた。





彼が来る、




なんて少女漫画的な想像はしない。






あんな自分を中心に考えてくれる男子なんて




少なくとも中学生や高校生でいる訳ない。





どうしてあんなに妄想出来るんだろう。





そんな妄想したら現実の男子に幻滅しないのかな。





私は漫画より小説が好きだから分からないけど




漫画ってある意味人を地に落とすものだと思う。






「傷つくくらいなら他の人にしといた方が得ですよ。





…俺とか。」





「…そうだね。




その方がいいなぁ。






梶山くんならこんな風にさせないよね」





「別に女子に手馴れてないですよ。






人に慣れてるだけで。」





「上手い事言うじゃん」





会話は途切れる。





会話なんて必要ない。






後輩が自分を慰めに来ている、





その事実だけで十分だ。




楽器を置いた。




ロッカーの上で立ち上がる。





必然的に梶山くんを見下ろす形となった。






「好きですよ、俺。先輩のこと」




「うん」





「無理しなくていいから、




俺を、先輩の一番にさせて下さい」





「……うん。」





「いいんですか」






「自分で言ったのに?」





「…はい」





「梶山くんのこと好きだよ。」






梶山くんは一息をつく。




しっかりと私の目を見据えた。






「未練たらたらなら、





遠慮なく俺のこと利用してください」






その言葉に私は答える事が出来なかった。
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