届かなくても、
結局部活が終わるまで私は部室に戻らなかった。




楽器ケースも持ってきてくれた梶山くんのおかげで





片付けて持って帰って練習も出来るし。





銀色に光り輝くトランペットを見て




私は羨ましいと思った。






磨かれば光り輝けるんだもの。




私はきっと磨かれても光らない。





銀色の塗装がハゲてカビが生えたような色になって




それでようやくもう光れないことに気づく。





もっとシルバーポリッシュを

塗っとけばよかったとか




まさに後悔先に立たず。





私はいつになってもそのまんま。






年月だけが過ぎていって




こうして梶山くんを頼ってるずるい女だ。




前はこういうことに罪悪感なんて感じなかったのに。





息をするな、と言われるより難しいけど





彼を一瞬で堕とす能力でも備わっていたら。






きっとこんなことにならなかった。





手遊びをしている梶山くんに見られないように




訳の分からない涙を一筋流した。
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