届かなくても、
「ちょっとトイレ行ってくるね」




「あ、はい」





近づいて来る救急車も




副顧問の悲鳴も




何だか不穏な気配がする。





私はそろり、そろりと音を立てずに階下へと降りた。





ゆっくり階段の壁に近寄ってそこから覗き見ると





副顧問がじっと、2年2組の外を見つめていた。






私の気配に気づかない副顧問のすぐ後ろを





音を立てずにすり歩いて行く。





影が薄いのはこういうのが役に立つ。





隣の2年1組に入り窓を開けて外を見る。






強風が吹き付けてきて思わず目を閉じた。





顔に校庭の砂が当たっている。





その強風が収まり、ゆっくりと目を開けた。





救急車の音は近づいてきている。





体を乗り出して外を見るとにわかには信じられない光景が広がっていた。




いつもと何ら変わりない光景。





そこに赤黒い、液体。





そして






「蛍…」






彼が横たわっていた。
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