届かなくても、
深い闇に吞まれた病院というのは



とても魅力がある。何故なら、




昼と夜では違う姿を見せるからだ。




そのギャップを私は魅力と捉える。




ほとんど、否、全く人気のない廊下は




私が歩くスリッパの音がよく響く。




パッタン、パッタンと響くそれは




規則正しくないからこそ親近感を覚えた。





階段は薄暗くて危ないからエレベーターに乗った。





病院のエレベーターって結構怖い噂あるなぁ。




でもそれは自分が無知だから。





自分が知らないものは怖い。





それが人間、動物の本能だろう。






一気に1階まで降りる。





エレベーター独特の落ちる感覚。




あの感覚が昔ちょっと好きだった。




今はそうでもない。




1階に着きました、とアナウンスがなり




私はロビーに出た。





自動販売機がずらっと並んで




雑誌も並んでいる。





もちろん誰もいない。



小さい椅子に腰かける。




本日3日目の溜息をついた。




何だか気疲れする。




身体中が重い。




眠気は別にないし。




動きたくない。このままここにいたい。






「きーさん?」






彼の、声だった。
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