届かなくても、
「なんで梶山と付き合ってんの」
固まる。
体中の血が緊張で逆流した感覚に襲われる。
空気が私の周りだけ氷に包まれたようだった。
普通にバレてる。
なんで?
隠してたわけじゃないけど
誰にも公言していないはず。
動揺した顔がはっきり出ていたのか
彼は我に返ったような顔をした。
「あぁ…やっぱりそうなんだ。
そうかなとは思ってたけど…
ごめん、言い過ぎた。戻ろう。
病室まで送るから。」
彼は今度は私の手を掴まなかった。
さっきの強引さは何処に行ったんだか
なんで霊安室に連れて行かれたのか
何にも聞けずに自分の病室に着く。
「目瞑って、10秒だけ。
それで、手出して」
素直に従う。
手に何かが置かれ
いいよ、と言われたので目を開けた。
ミントグリーンのリボンのついたひつじだった。
お礼を言おうと思って顔を上げたら
彼はもうずっと遠くを歩いていた。
彼は階段を降りる直前に
私に手を振った。
本物の笑顔だった。