届かなくても、

プロフィール





学校に着いた。









今日もいつも通りの一日が始まる。









提出物を上げて机の中に準備物を入れたら











音楽室のカギを借りにいって楽器を出す。









彼は来た。









彼も同じように楽器を出す。










「今日来るの早いね」









「え、そうか?」









「いつも10分後に来るよ」








「へぇ~」










言ってからさぁ~っと血の気が引いた。








まるで観察しているみたいじゃないか。









でも弁解すると怪しまれる…









頭の回路をぐるぐると回転させている間に








彼は音を奏でる。









この広がる音が好きなんだ。










…音、全然あってない気はするけど。










彼は









音を合わせて








音階を合わせて








基礎練に入る。










私も彼とやることは同じだ。









ただ今日は楽器を吹いた後すぐに片付け








グランドピアノを開いた。









こっちに目を向けずに彼は問い掛けた。










「発表会あるの?」










彼はいつの間にかホルンを磨いている。









つかの間の休憩タイムだろうか。








聞いたところによると彼の楽器は自分の物らしく、









本当に丁寧に扱っている。










「うん。暗譜出来そうにないから







練習しとかないと。」










「ピアノってさ。弾くと









指冷たくならない?」











彼は顔をしかめた。










手入れの際、オイルでも付いたのだろう。









私は彼の問いを返した。









「うん。触るとすごく冷たいけど









ちょっと経つとぽかぽかするよ。」









「俺は、冷たくて触れないな」









彼は呟くと磨き上げられた








ホルンのマウスピースを唇に当てる。








そう言えば彼は








いつも唇がぷるぷるだったような気がする。










…って、何考えてんだ、私。










「何」










一向に弾かない私が







彼を睨み続けているのに気付き、










不審がった彼はすぐ傍まで近づいてきていた。








ピアノの上で頬杖をついてこちらを見ている。










「い、や…別に…」









「早く弾いてよ。」








「あ、うん」









彼はさっきと変わらない不機嫌顔で私を急かす。









持ってきた楽譜を広げた私は鍵盤の上に指を添えた。











リズムを頭の中で刻み、









短く息を吸って楽譜通り弾き始めた。










鍵盤を押すたびに遠くまで飛ぶ音。









ピアノはこの手ごたえが好きだ。









全て弾き終えると彼はパチパチと拍手をした。












「どれくらい練習したの?」










「2か月、くらいかな…」









「上手いね。」











彼は私の手をじっと見つめる。











「手、きれーだね。つるつるー」










そう言って譜面台の上に乗せていた








私の手を触りだす。










ピアノを弾いている割には、







ぷにぷにの手だとよく言われる。








ピアノを弾く指の形で置いているため










彼に関節を押されてもびくともしない。









彼は私の手をするっと撫でて









元いたところに戻っていく。










そのマイペースなそぶりは、まるで猫のようだ。











でもそんな猫を好きになってしまう私って…











どうしよう。












顔が熱い。











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