届かなくても、
一日練も終わり帰宅しようと廊下に出た時





またいた。






あの女が。






今日は青いワンピースに身をまとい




身体はぐっちょりと濡れている。





同級生はその横を普通に通り抜けていく。





皆、見えないの?




私は今目の前にいる者が本物か偽物か




区別がつかずそのまま立ち止まっていた。







「お母さん…」








後ろで誰かが確かにそう呟いた。





私が振り返るとそこにいたのは麗亜だった。





信じられない、とでも言いたげな顔で




私の後ろを見つめている。





その焦点はやはり後ろにいる女に向いていた。





「麗亜のお母さんなの?」




「うん…穂波医師に殺された」





私の目を見ずに静かに答えた。




さっきまでいた部員はすっかりいなくなり




廊下には私達のみとなった。




穂波…




多分蛍の両親だと思う。






前、蛍の両親が医療関係の仕事についていたと



聞いたことがあるから。






「あいつのせいで…」




「麗亜…」






麗亜をなだめようとすると




後ろの女が声を発した。





「…あ」





この前もそうだったような気がする。




口を動かしているのは分かるのだが





最後の方しか聞き取る事が出来ない。





私はじっと女の口元を見つめる。





読唇術は出来ないけれどだいたいなら分かるはず。





後ろにいる麗亜はそんな私の努力を知ることもなく





女の言葉をそのままそっくり言った。






「穂波医師は悪くない。麗亜…





お母さん、そう言ってるの?」





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