届かなくても、
麗亜はすぐに目を覚ました。





さすがに運べないし先生も呼びたくはなかった。






あまり遅くまで残っていると怒られるからだ。





麗亜はしばらく焦点の合わない目で





どこかを見ていたがふっと目が私に移った。







「覚えてないんだ。本当は。




穂波くんを落としたこと。





でも、手には感触が残っているの。」






その言葉に違和感を感じたが




その違和感が分からずに黙り込んだ。





麗亜は自分の手を見つめぽつぽつと話し始める。




お母さんと一緒にお姉ちゃんも死んでしまったこと。






だから、こっちに転校してきたこと。





今は祖母の家で暮らしていること。





麗亜は話し終えると、息をついてこんなことを言った。





「お姉ちゃんだと思うんだ。




だって、穂波くんと治療した医師、




苗字一緒だもの。」






『穂波くん』。




前、麗亜は蛍と言っていた。





あれは、何かが憑いていたとか?






…いや、まさかね。






最近おかしなことがあり過ぎて




ちょっと脳が変なだけだ。





「だって、どっちも気配を感じる。




目が4つ、私を見ているの。





まだ成仏してないのよ、きっと。」





「…お祓いしてもらえば?」





「お祓いがどうしたって?」






びっくりして後ろを振り返ると




涼が廊下に立っていた。





どうやら話を全部聞かれていたらしい。





私と麗亜はちょうど、涼に


背を向ける形で座っている。





道理で気づかないわけだ。





「俺の親戚、お祓いだかなんだかやってるから





頼んでみようか?」





「でも、料金とか…」




「そんくらい、目瞑ってくれるだろ。あっちも。




現に危害が加わってるんだから、早めに対処した方が




いいんじゃないか?」





「…ありがとう」







麗亜は凛とした強いまなざしで




お礼を言った。
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