2人の距離
「そうだ、宙。今日、英単語テストLevel21でいいんだよね?」
「うん。」
「ちゃんと覚えた?」
「うん。」
「じゃあ、抜き打ちテストしまーす!!」
「うん。……えっ!?」
くわっと目を見開き、私を見つめ、首を軽くフリフリと振る、宙。
「勉強してきたんでしょ。なら、平気でしょ。」
「…………う、うん。」
「じゃあ、意味言うので英語でお答えください。」
「……………ハイ。」
かすかに聞こえる程度の宙の声。
しょぼんと肩を落としている宙の姿は、サッカー部のエースに見えない。
「ハイ。行きます!!借金・負債。」
「……debt…………?」
「ОK、次、予算。」
「budget!!」
「お、正解。早い!!次、除外する。」
「ex、ex…ex……」
「exの後は??」
「exp……」
「ちがーう。」
「exget!!」
「そんな単語無いと思う。」
「じゃあ、知らね。」
「はぁ、excludeだよ。」
「ああ、excludeかぁ。今覚えた。」
「じゃあ、excludeの意味は??」
「………………!!」
ピタッと全てが停止した、宙。
やっぱり、かわいい。
宙を見ると、立ち止まって呆然としている。
「宙!!とりあえず、歩こうか。意味思い出せた??」
「………〜を、……」
「そうね。『じょ』??」
「〜を『じょ』??……じょ………じょ…じょ……あっ、〜を除外する!!」
「ハイ、正解!!よく頑張った。」
私は宙の、頭をくしゃくしゃと撫でる。この時が、最高に幸せだ。
「うわぁ、水希!!今日はセットしたんたから、やめろよ…」
「えっ!?あっ、だから撫で心地がいつもと違うのか。宙、ワックスでもつけたの??」
コクンと頷く宙に、私の胸はギューーっと、締め付けられてしまった。
宙は、前髪を引っ張りながら、照れ顔で
「今日は、いっぱい勇気出すんだ。大切な日になる予定だから、身だしなみもって思って。水希、今日の俺どう??カッコイイ??」
「う、うん!!カッコイイ…イケメン!!いつもに増してカッコイイよ。」
「本当!?」
宙は、裸の木に突然満開の花が咲いた様な笑顔を、パァーーっと輝かせた。
『えっ!?』
ドキッと、私の胸はなぜか高鳴った。
それより、宙、眩しいくらいの笑顔だよ。
「そうだ、大切な日って、何するの??」
「えっ!?水希にはか、関係無いよ!!」
私の素朴な疑問は一蹴された。そんなにバッサリ斬られると、悲しい。私は、あからさまに落ち込みながら、言う。
「そっかぁ、まぁ、よくわからないけど、頑張って。応援するから。」
「うんっ!!」
と、宙は、今まで一度も見た事が無いくらい、間抜けで、幸せそうな笑顔をみせた。この笑顔は女の子のようだよ。あー、かわいい。
ホントに、男なのかな…??