2人の距離
「宙ーーーーっ!!お弁当忘れないでっ!!」
私は動きにくい体で、小走りする。
しまった。という様な顔をした宙は、ハッと気づき私を叱る。
「走るなって言っただろ!水希!!」
「ハイハイ、ごめんなさいね」
「あのなあ、今は水希1人の体じゃないんだから…」
「分かってる。」
「分かってない!いくら、安定期に入ったって言っても、用心には用心を重ねろって言うだろ!!」
眉間にシワを寄せ、語尾かキツくなっている宙。
私は、大丈夫なのにな…
「ありぇ、パパだあーー!!」
その声に、宙の顔が一瞬でいつか見た、裸の木が突然満開の花を咲かせた様な笑顔になって、甘ったるい声で
「楓ぇーーーー!!」
と駆け寄ってきた我が子をギューッと抱きしめる。私は、半ば呆れながら
「ほら、宙。時間。」
と急がせる
「そうだ、楓。パパは、お仕事に行って参る!!ママが静かにしていられるように、お手伝いたくさんするんだぞ。約束出来る人ーー!!」
「ハーーイ!!」
元気に返事をする楓の頭を撫で、私に向き直り、いつもの様に言う。
「お弁当、ありがとう。水希、行ってきます。今日も家のこと楓のことよろしくお願します。」
と、楓へとは違う甘い声と、私の唇を奪っていく貴方の唇。
私は、口元を緩め楓と共に、宙を見送る。