その光を、追いかけて。








「急にあんた、どうしちゃったの」



重い空気の家のリビング。

なんとか口を開いた母さんの問いに「……なにも」と返す。



「なにもないことはないでしょ。
顔はちょっと怖いけど、あんた、優しい子じゃない」



はっと小さく笑いが漏れた。



「そんなわけないよ。
俺は……そんなんじゃ、ない」



リビングのソファに深く体を沈めて、顔を手で覆うように隠す。



「なんかあったなら、言いなさい。
お母さん、ちゃんと聞くから」



俺は柚季を怪我させたんだ。

だけどそのことに気づいてもいなかったんだ。

さっき彼女の友だちに話を聞いたんだ。



────言えるわけが、ない。



やるせない、気持ち。

自分がなにをすればいいのか、したいのかもわからない。

後悔があとからあとから俺を絡めとるように浮かぶ。



胸をかきむしりたいほどもどかしく、苦しくて。

俺は「待ちなさい!」と叫ぶ母さんを無視して、家から抜け出した。



向かうのはここ数日の定番。

────土手だ。






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