エスモードアイドル
エスモード、始動
自分にとって父は憧れの存在だった
父はとある芸能事務所の社長兼アイドルのマネージャーをやっていた。若い子、それも着飾った綺麗な子達を扱うこともあり、父を悪く言う親戚は後をたたなかったが、私も母も父が大好きだ。父がプロデュースしたタレントは絶対にヒットする、テレビに映る彼らを一緒に見ながら、満足そうに微笑む父がかっこよくて、誇りに思った
そして、自分もいつか規模はどうあれ芸能事務所を構えたいとさえ思っていた。あまり母はよい顔をしなかったけど、父は嬉しそうにしてくれた。そのために学生時代は勉強を怠らなかったし、父の仕事もほんの少しだが手伝わせてもらった
「え、アイドルのマネージャー…?」
「とは言っても、現マネージャーのアシストと言ったところだ。大学も夏休みなんだろ?短期だが、やってみないか」
「でも…」
渡された書類を眺めると、驚くことにそこには整った顔立ちの男の子のプロフィールの束。どうやら男性アイドルグループらしい、見ていたテレビを消して何枚な捲ると男の子の一人に見覚えがあった
「ヒメくんだ…」
姫川弘人(ヒメカワ ヒロト)、昔この辺りに住んでいた男の子。名前通りの昔の可愛い雰囲気はどこに消えたのか、ツンと澄ました少し意地悪そうな男の子へと成長している。耳にも何個かピアスが開いていて、なんだかあまり得意じゃないタイプだ
「おお、美奈子に言われるまで気づかなかったよ」
「うん、懐かしい」
「どうだ、弘人君もいるんだしやってみる気になったか?」
「……でも、お仕事上手くできるかな」
華やかな芸能界には裏がある。マネージャーだって、そんな世界を支える重要人物の一人だ。多忙なタレントのスケジュールを管理し、仕事を貰うために営業もする。勿論、ストレスの溜まった彼らのケアだってしないといけない
「確かに、マネージャーという仕事は厳しい。…それでも、美奈子は昔から私の仕事を見てきたから大丈夫だ。勉強だってしたんだろ?」
「い、一応一通りは…」
じゃあ、大丈夫だ
お父さんに落ち着かせられるように頭を撫でられて、私は一息つくと仕事を受ける決心をした。きっと、この一歩は将来にも繋がるはずだ