ライ麦畑でつかまえて
3年付き合い何となく過ごしたが、香水の香りが変わった時に、男の気配を感じ、しっくりいかなくなり別れた。


男女の関係なんて、そんなものだと割り切る反面、自分の甲斐性のなさが身に染みた。


好きなブランドの1つもプレゼントできない、そんな俺だった。


誕生日に歳の数だけ蝋燭を立て祝ってやる、そのくらいのことしかできなかった。


「何もいらない。ずっと一緒にいられればいい」


そんな可愛らしい言葉を鵜呑みにして、甘えていたのかもしれない。

今更ながらに思った。


白く細い指がページをくる。

その仕草が、自然でさりげなく美しいと思いながら、電車に揺られていた。


見つめられている気配に気づいて、ふと顔をあげる。

小首を傾げ微笑む顔に薄く紅がさす。


彼女の膝の上から、文庫本がコトリと床に落ちる。


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