運命ひとひら
私たちはそんな他愛のない話をしながら帰っていた。
学校の最寄りの平塚駅に着いた時、香織がICカードにチャージをしたいといったので、券売機のところで待っていた。
そんなときだった。
もしも会えたら…。
そう思っていた人とすれ違った。
あの匂い。
そして、少し肩幅の広い背中に長い足。長身。
見間違えるはずがない。
「竹内…。」
そう声をかける。しかし、彼は聞こえてないのか、振り向かない。
「竹内……竹内悠人っ!」
大きめの声でいった。
それでも、彼には届かなかったようだ。
しばらく時間が止まったような気がした。
ざわめく駅の構内。急ぎ足で歩くサラリーマン、友達と楽しそうに話しながら歩く女子中学生…。
その人たちの動きや、ざわめきが一瞬、止まった気がしたのだ。
そんな私の世界。
私の声の反響、残響がどんどん小さくなってゆく竹内の背中と私との間で空しく響いていた。
ーーーもう、私のそばには、あなたはいないんだね。
それから暫くの間竹内のほうを見ていた。数分経った時、身長は小さいけれど、細くてスタイルの良い綺麗な女性が竹内に駆け寄っていった。
口の動きからして、「遅くなってごめんね。」とでもいっているのだろう。
私だったら竹内のことを待たせたりしないのに。
なんで、私はまだ高校生なのだろう。
竹内がいつも私のそばにいてくれた、中学生の頃は、高校生になったらきっともっとたくさんの竹内のことが知れるだろうと思っていた。
でも、高校生になったときには、あなたはもう私のそばにはいないじゃない。
ーーーやばい…、泣きそう。
そのとき、
「またせてごめん。チャージ終わったよ!」
香織がきた。
「じゃあ電車乗ろっか。」
絢奈がいった。
改札を通って、ホームへ行く。
左のほうの空を見れば夕焼けが、右のほうを見れば月が浮かんでいた。
それが、無駄に綺麗でなんだかさらに切なくなった。