イケナイ恋事情―私の罪と彼の罠―


「おまえはもっと甘えてもいい気がするけど。
いつまでも祥太甘やかしてないで、自分が甘える側に回ってもいいんじゃねーの」

風間の向こうには青々と茂った街路樹が、夏の風に吹かれ揺れていた。

今日から九月で、暦の上では秋になるというのに、吹く風は温かいというよりも暑い。
太陽はのんびりと動いていて、まだ地平線から顔を覗かせているのも、暑いまま一向に下がろうとしない空気の原因かもしれない。

胸のあたりまで伸びた髪が、湿気を含んだ風に揺れる。

「一応、〝女の子〟なんだろ」と付け足した風間に少し喧嘩を売られている気分になりながら、眉間にしわを寄せて笑顔を返した。

「そう。一応ね。一応でも女なんだから、風間はもっと私に優しくしても罰は当たらないと思うけど。
今日おごってくれるとか、ランチおごってくれるとか」
「金かよ」
「だって風間、態度で優しくとか無理でしょ。それに、風間に急に優しくなんてされたら私だって気持ち悪いし」

気持ちも悪いし調子も狂う。
そう思って言うと、笑っていた風間が不意に私に視線を落とす。
そして、さきほどまでの屈託のないものとは違う、意味深な笑みを浮かべた。

「だから優しくしたろ? 昨日」

昨日、という言葉の裏に潜んだ事実に、気まずくなって目を逸らす。


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