イケナイ恋事情―私の罪と彼の罠―
「ちょ……っ、こんなところ誰かに見られたらマズいんだってば」
「いいじゃん。一瞬だし。それに誰からも見えないよ」
「仕事中にこんな事してるってバレたら大変でしょっ」
「だから、バレないうちに早くしよ?」
いいわけの悪い祥太に微笑みながら言われて、もうここで騒ぐよりはすぐして仕事に戻った方が賢明かと諦めた時。
「実莉」という声が響いた。
屋根もあって塀もあるだけに、よく反響した声が誰のものかすぐに分かって……そっちを向けなくなる。
そんな私を離す事無く、祥太は風間の方を見た。
「なんだよ、風間ー。せっかくいいところだったのに」
「仕事中に盛ってんじゃねーよ」
「盛ってないだろ。今日せっかく待ってたのにまだ仕事で会えないっていうから、キスだけで大人しく帰ろうとしてたんだから」
「だとしても仕事中だ。社員にバレて万が一クビだとかになったらどうするんだよ」
呆れた声で言う風間に、祥太が笑う。
「その時は俺が責任とればいい話だし問題ない」
風間に集中していた私の意識を、祥太の“責任”って言葉が連れ戻す。
だって、責任って……。
結婚だとかそういう事を祥太は本気で考えてるんだろうかと驚きを隠せなかった。
それと同時に、祥太との関係の先にそういうゴールを考えていなかった自分に気づいて……そこにも驚いた。
祥太に、本当に何も望まなくなってしまっていた自分に気づいて。