イケナイ恋事情―私の罪と彼の罠―
「責任取るも何も、風間も一緒にクビでしょ」
「ああ、そうだったな」
「……無責任男」
「とにかく会議始まるから早く来い。本当に怪しまれる」
それもそうだと思い、蒸気した頬や気持ちを落ち着かせながら風間の後ろに続いた私に。
顔半分だけ振り返った風間が「ごちそーさま」と告げる。
また祥太を真似た言葉に気づいて、熱くなる頬に手を当てながら風間の背中に一発蹴りを入れてやると、ほっぺをつねられて。
「仮にも受付嬢の顔になにすんの!」
「うるせー! 仮にも受付嬢ならナンパくらい上手く交わせよな」
「……風間、立花。会議を始めるから早く席につけ」
そのせいで、ぎゃあぎゃあしながら会議室に入る羽目になった。
その日の夜。お風呂から上がってから、そうだとスマホを持って祥太の番号を呼び出して……その手を止めた。
祥太の様子がおかしいような気がした日は、何かあった?って毎回電話をかけてきた。
だから、今回も同じように電話をかけようとしたのに……手が動かなかった。
真っ暗な液晶画面をぼんやりと眺めているうちに、不意に風間の言葉が蘇る。
『比べろよ。祥太と俺を』
「比べるって……なに」
比べようなんかないハズだ。
私は、身を挺してまで祥太との関係を守りたかったんだから。
七年間の付き合いは簡単には切り落とせないし、そんな勇気、多分私にはない。
なのに……頭ではそう思うのに。
裏切った心は勝手に変わり始めていて。
じわじわと広がり浸食を始めた気持ちから目を逸らすように、目を閉じた。
もう戻れない事は、どこかで分かっていたし……。
祥太との関係に……終わりが見えていた。
結婚って形じゃない、ゴールが。