イケナイ恋事情―私の罪と彼の罠―
「早いな。まだ約束に10分もあるのに」
私の前まで来た祥太が、そう言いながら噴水の隣にある時計を見上げる。
時計が指す時間は12時50分。
待ち合わせの13時よりも確かに早い時間だった。
「うん。ちょっと考えたい事とかあったし」
そう答えた私に、祥太は「ふーん」と不思議そうに返事をする。
「それより、水族館に行きたいって言ってたのに、急に公園になんか変更してどうした?
しかも、ここ、大学の頃よく来てたしわざわざ来たところで何もないだろ」
「散歩したいならもっと目新しい公園にした方がよくないか?」と聞く祥太に、静かに首を振った。
「ここがよかったの。先週ね、たまたまここに来る機会があったんだけど……その時、そういえばここ何度も祥太と来たなぁって思い出して。
最後にもう一度一緒に来たいと思ったんだ」
微笑みながら告げた“最後”という言葉を聞いて、祥太は一瞬驚いたような顔をして黙った後、ははっと笑い出す。
「なんだよ、大げさだな。最後なんて言わなくても何度でも来れるだろ。
あ、もしかしてここ、取り壊されるとかそういう事?」
私の言葉の本意に気づいていない祥太は、そう笑ってから手を差し出す。
すっと、自然に差し出された手は私の手をとり、体温がなじむ。
七年以上、当たり前のようにしてきた行為だった。
祥太はデートの時は必ず手を繋いでくれたから。