イケナイ恋事情―私の罪と彼の罠―


祥太が必ず待ち合わせの十分前に来て先に私を待っていてくれるのも、私が疲れた顔をしていると決まって私のお気に入りのケーキ屋さんでケーキを買い込んで来てくれるのも。
……そして、祥太の浮気を私が許す事も、祥太を好きでいる事も。

ふたりの間で、全部が当たり前になりすぎてた。
ずっと当たり前にあって、変わらない事なんてないのに。

「とりあえず、クレープでも食べる? いつもこの公園に店出してるクレープ屋のクレープ、実莉好きだったろ。レアチーズといちごのやつ」

笑顔で言いながら歩き出す祥太が手を引いたけれど、立ち止まったままの私に、祥太が不思議そうにこちらを振り向いた。
そして、「実莉?」と、どうかしたのかっていうニュアンスで私を呼ぶ。

笑っててもキョトンとしていても、子犬みたいに人懐っこい顔の祥太に困り顔で微笑みながら……ゆっくりと口を開いた。

「先週の土曜日……祥太が水族館に行こうって誘ってくれたのに、約束があるからって断ったでしょ?」
「ああ、それがどうかした?」
「室井さんと会ってたの。室井さんが会って話があるからって」

観察するように見ている先で、祥太は動揺からか瞳を揺らして驚いた表情を浮かべた。
いつも、浮気がバレた時に浮かべる顔と同じだった。

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