イケナイ恋事情―私の罪と彼の罠―
「実莉先輩、最近風間さん避けてません?」
村田さんから聞かれて、内心ぎくりとしながらも、そんな事ないよと返す。
否定したところで、私が風間を避けているのは事実だし、それを洞察力の鋭い村田さんが気づいていないとも思わないけれど、素直に認める事はできなくて。
嘘だと突っ込まれるだろうかと嫌な緊張を感じていた私をじっと見て、村田さんは意外にも「そうですか」とあっさり引き下がった。
別に話したい事でもなかったから助かったは助かったけど……村田さんの予想外の態度に肩すかしでもされた気分になって思わず聞き返す。
「なんか……突っ込んで聞いてこないの、珍しいね」
聞いた途端、待ってましたと言わんばかりに「聞いていいんですか?!」と食いつかれて、キャスター付きの椅子に座ったまま、少し後ずさった。
営業時間中の店内に響いた声に思わず周りを見渡す。
幸いお客様はいないものの……営業時間中の大声での私語は控えるべきだと注意したいけど、今の村田さんには届く気がしなかった。
「私もね、気にはなってたんですよ。もうそりゃあ盛大に。
でも、実莉先輩、本当に悩んでるっぽいし、私なんかが下手にいじって余計に落ち込ませちゃったらって思うとおちおち声もかけられなくて、ずっと悶々としてたんですよー」
「そ、そう」
「何もできないから、こっそりいつも以上に見つめる事くらいしかできなくてもどかしかったんです。本当、胃に穴が開くかと思いました」
「そうなんだ……気にしてくれてありがと」
「気にしないでください。私が勝手に心配してただけなんで。
でも……やっぱり、何かあったんですね。避けたくなるような何かを風間さんにされたって事でしょう? 先輩、可哀想に……」