イケナイ恋事情―私の罪と彼の罠―
「あれー、実莉先輩じゃないですかっ!」
誰? というよりも、どこにいるの? って気持ちで見渡すと、私の後ろ側のテーブルに座ろうとしている村田さんがニコニコとこちらを見ていた。
誰かはもう振り向く前に分かっていたから、特に驚く事もなく聞く。
「村田さん……そちら、お友達?」
一緒のテーブルに座ろうとしている可愛い女の子を指して言うと、村田さんはにこりと笑みを浮かべて「はい」と答えた。
意味深にもとれるその微笑みに、本当にただのお友達って表現で済む関係なんだろうかという疑問が湧いたけど、それはまぁ置いておいて。
「実莉先輩は、そちら、例のダメ彼氏ですか?」
本人を目の前にサクっとそんな事を言ってくる村田さんに苦笑いで答える。
「村田さん。言葉の選択がちょっと」
言いながらチラっと見た祥太は、わけが分からそうにキョトンとしていた。
それもそのハズだ。まさか自分が彼女とその同僚の間でダメ彼氏と認定されてる事は知らないんだから。
「ああ、そっか。そういう人って自覚ないですもんね。
じゃあ、実莉先輩の彼氏さん。初めまして。実莉先輩と同じ会社の村田と言います」
「ああ、そうなんだ。奥村です。実莉がいつもお世話になってます」
爽やかな笑顔できちんと挨拶した祥太が意外だったのか、村田さんは眉を寄せていた。
ダメンズって言ったら何もかもが人並み以下の最低人間と思っている村田さんは、笑顔で彼女の同僚に挨拶できる祥太に驚いたのかもしれない。