義兄(あに)と悪魔と私
「あ、ヒロ様も一緒だ!」
麻実の一言に、内心凍りついた。
「あ……本当。良かったね! チャンスなんじゃない?」
「えへへ……そうかなあ。でも彼女いるかもだし」
私は悟られぬよう、自然な言葉を紡ぐ。
(最悪だ……)
ヒロ様こと、有坂比呂。
その端正なルックスに加え、サッカー部唯一の一年生レギュラーを獲得。
その上、成績も常に上位という……まさに隙のない完璧な男。
入学早々ファンクラブができ、一部の女子は彼に尊敬の念を込めて「ヒロ様」と呼ぶらしい。
その話を聞いた時は正直寒いと思ったが、本当の話なんだから仕方がない。
去年は別々のクラスで、私は麻実から聞くまでそのことを知らなかった。
その時には母の結婚話は進んでいて、比呂くんにも会っていた。
けれど、比呂くんに熱を上げる麻実を見ていると、とうとう言い出すことができなかった。
だから、新しい兄弟ができたこと、それが比呂くんであることは麻実にも秘密だった。
そのために名字も卒業までは変えずに、このまま隠し通すつもりでいた。