義兄(あに)と悪魔と私
「そういえば、聞いてる? この夏休みから予備校に通いたいから、円の家庭教師はやめさせて欲しいって」
「え? 比呂くんが言ったの」
「そうよ。残念ね。あんたの成績、良くなってきたのに」
それは静かな衝撃だった。
比呂くんからの母への申し出。彼は本気で私達の関係を清算しようとしているのだと気づいた。
彼の中での復讐は終わった。だから、私にも家族として優しくできる。そういうことだったのだ。
(私は用済みってこと……)
分かっていた、この恋が報われることなどない。
私は彼の母親を殺したも同然な女の娘なのだ。
(そんなの、私にはどうしようもないじゃない)
いっそ泣き出してしまいたかった。
悲しいのか、悔しいのか、憎いのか、どれか一つに決めることなどできない。
全てを涙で流してしまえたら、どんなに楽だったろう。
鬱屈した思いは、私の中に募りに募って――ついに刃に変わろうとしていた。