義兄(あに)と悪魔と私
毎日、母が早起きして作ってくれるお弁当。
今日も用意されていたのは知っていた。
だけど。
「……忘れたの。急いでたから」
「嘘。わざとだろ」
「分かってるなら聞かないで」
また、嫌な言い方。比呂くんの前では、私はいつも素直になれない。
理由は分かっている。
私が彼を好きだから。憎んでいるから。
そして、許してしまうのがこわい。
そんなこと、あってはいけないし、ありえない。
「相っ変わらず、感じ悪いなぁ」
比呂くんは言ったけれど、それほど気にしているようには見えなかった。
「そんなに俺のこと嫌い? なんて、聞くまでもないか」
私は答えなかった。答えられなかった。