義兄(あに)と悪魔と私
パンドラの箱
翌日は一学期の終業式だった。
しかし体育館での式も、その後の教室での終礼も、全く頭の中に入って来ない。
昨日の昼、屋上で、結局比呂くんを突き飛ばすことができなかった。
私はただ、その記憶を思い出す度、それを打ち消したくなって悶える。
当の本人は今日もなに食わぬ顔で、隣に座っているのだから尚更だ。
ただ少し変わったのは、時々私の方を向くその視線が哀しげに笑っていること。
許さない、私は言った。
許さなくていい、と彼は言った。
何度も繰り返された言葉がどんな風に終わったのか、よく思い出せなかったが、彼は最後まで誠実に私に答えた。
正直迷っていた。
私は比呂くんを許すべきだろうか。
だから嫌だったのだ。謝罪なんて。
いくつかの言葉の羅列で、罪を許されようなどと思われてはたまらない。
永遠に許されない罪はあるか。
迷わずあると答えた。悪魔に出会った日の私なら。