義兄(あに)と悪魔と私
担任の教師が夏休みの注意事項について話しているのを聞き流しながら、私は机の下でなんとなくスマホを見た。
新着メールが一件。母からだった。
母の不貞を罵ったあの日以来、私は目すら合わせない。
時々、母が何か言いたげに私を見ていることには気づいていたけれど、結局何も言ってこなかった。
私は少し緊張しながら、メールを開く。
《あれから色々考えました。今日会って話をして、相手の人とは縁を切ります。夕食までには帰ります。お母さんのみっともないところを見せてしまって本当にごめんなさい》
読み終わって、何故か複雑な気持ちになった。
こうなることを望んでいた、はずだった。
母が不倫相手と別れれば、私達は幸せになれると思っていた。
(……本当に?)
今更何事もなかったかのように、幸せな家族になれるのだろうか。
平穏な生活をずっと望んでいたはずなのに、未来には不安しか見えない。
それでも、これで私の苦悩がひとつ終わったのだと、そう思うことはできた。